壊れた時計が動き出す

院のご機嫌を伺いに来ていた将臣と***は京で宿を取っていた。昼食時になり***はようやっと起きてきた。

「相変わらず朝に弱いなぁ、お前は」
「うるさい」

寝起きのためかすれ声の***は水を口に含み、喉を潤す。昼食を取り、そろそろ雪見御所に帰ろうかと思案していた***を将臣が容赦なく引き起こす。

「…なんだ?」
「少し付き合ってもらいたい場所があるんだが」
「一人で行け」
「お前もどうせ暇だろ?」

ずるずると将臣に引きずられていく。着いたのは神社。石段を息も切らさず登る2人。***はもとより将臣はこの世界に来て身体能力が向上したようだ。石段を登りきると将臣は誰かを探すような素振りを見せる。

「将臣くん!!」

聞きなれない声に警戒心を抱き、右手に隠し持ったナイフを握る。しかし、将臣がその声に応えたことでナイフの切っ先は目的を失った。少女の連れであろう少年もまた少女を追ってやって来た。そして、将臣との再会を驚き喜んでいる節を見ると将臣がよく口にしていた幼馴染と彼の弟だろう。

「将臣くん、あの人は?」
「あぁ、俺らと同じ境遇の人間さ」
「貴方も現代から来たの?」
「まぁな」
「何処?神奈川?」
「僕が最後にいたのは雀の竹取山だ」
「何処だ、それ」
「赤神一族が所有する竹林。澄百合学園時代に子荻とタッグで匂宮の分家を相手に実地訓練を行った想い出の場所だよ。そして、そこで橙色に殺されかけた」
「相変わらずハードな人生送ってんな、お前」

呆れる将臣とくつくつと笑う***に望美は取り残されたような感覚に陥る。

「あの、澄百合学園ってあの澄百合学園ですか?」
「なんだ、譲。知ってんのか、お前」
「当たり前じゃないか、兄さん。先輩も知ってますよね?」
「え、うん。超が着くほどのお嬢様学校なんだよね」
「京都郊外にある、偏差値と門地門閥が何より優先される超名門進学校にして上流階級専門学校。偏差値と門地門閥が重視されるお嬢様系『特権階級養成学校』ですよね?」

譲の興奮した面持ちでの澄百合学園の“表”の紹介にくつり、と喉を震わせる。その姿に譲と望美は不思議そうな表情を作る。

「ご丁寧な説明を有難う。でも、それは澄百合の“表”。本当の澄百合は『然るべき人間を集め、護身術や殺人術などの特殊教育を施されて狂戦士として育てられた上で、然るべきところへ送り出す。退学を許さず、逃げようとすれば捕えられる』場所。誰も通常どおりに入学することはなく、そして誰も通常どおりに卒業することもない。そして、そんな自分たちを皮肉るために付けられた澄百合の別名が『首吊学園』さ」
 
手の届かない雲の上の存在である『お嬢様学校』の実態に2人は目を丸める。後ろの仲間たちは学校というものを知らないので何の話をしているのか分からないという表情をしている。因みに、将臣には既に話しているので驚きは無い。

「改めまして、ご挨拶を。澄百合学園最優秀生徒であり総代表である萩原子荻(はぎはら しおぎ)の先輩であり親友であり、戦闘能力ならば澄百合学園歴代最強と誇られた澄百合学園実働部隊総隊長『歩く武器庫』こと***です。…元だけど」