王様の悲鳴

「い、ま…何て言ったんですか?」
「珍しいね。子荻が聞き返すなんて。零崎として覚醒した、そう言ったんだよ」
「うそ、ですよね、先輩。だって、そんな先輩が零崎だなんて…」
「子荻、君は感づいていたんじゃないかい?」
「でも、それは、だって…」
「くすくす、今の子荻は誰にも見せれないね。僕としてもびっくりだよ。最後に子荻の動揺した姿を見れるなんてね」
「さい、ご?」
「そう、最後だよ。子荻に澄百合学園実働部隊総隊長として命令を受けることも、子荻の先輩である【歩く武器庫】として語らうことも、子荻の親友である***として喋ることもね」
「学園を去るのですか?」 
「うん、さっき理事長に伝えてきた。前代未聞空前絶後の澄百合学園史上初めてで最後の追放処分だよ」
「追放を許したのですか?」 
「うん、『人に嫌われること、人に忌まれること、人に恨まれること、人に呪われること』が趣味な君のお母さんでも零崎だけは敵に回したくないみたいだね」
「私は先輩と一緒なら零崎だろうが匂宮だろうが人類最悪だろうが敵に回しました」
「そう、それは光栄だね。けれど、それはもう叶わない夢だね」
「はい、至極残念です」
「だったら、もう少し悲しそうな顔をしたらどうだい?」
「……」
「まぁ、いいや。とりあえず一応僕の後継を育てておいたから使いなよ」
「西条玉藻ですね。噂は聞いてます。先輩御自ら指導をした殺しの天才児だと」
「うん、戦闘面においての才能は認めるしきっと君にとってとても良い駒になると思うよ。けれど、それは本当に戦闘だけ」
「?」
「組んだら分かるよ。けれど、この学園に玉藻以上の強い人間なんていないから君は彼女と組むことになるね」
「先輩、今まで有難うございました」
「…本当に今日は珍しいことが次々と起こる日だ。此方こそありがとう。僕と君はそう遠くない未来で殺しあうことになるだろうね」




「こんな所で転寝していたら風邪を引きますよ」

身体を揺すられ、瞳を開けると月を背に経正が優しく笑んでいた。彼の首に腕を巻きつけ、彼を強く抱きしめる。彼の着物に焚きつけられた香の匂いが鼻腔を擽る。

「どうかしたのかい?」
「懐かしい夢を見たんだ」

柱に己の体重を預ける経正を跨ぐ形で座る。さらり、と此方の世界に来て伸びた翡翠色の髪が経正の手で梳かれる。

「聞いてもいいかい?」
「僕の大切な友人との最後の会話だった。『遠くない未来で殺しあうだろう』、それが彼女に掛けた最後の言葉だった。けれど、彼女は彼女の後輩、つまりは僕の後輩に殺された。それを知ったとき僕は本気でその後輩を殺そうとしたけれどその後輩もまた他の人間によって殺されてしまったんだ」

俯く***の表情は伺い知れない。しかし、経正は確信していた。

「後悔しているんだね、***は。その大切な友人を守れなかったことを」

何の返事も無い。ただ経正はそれが正解だと思っていた。彼女の頬を水滴が滑り落ちる。その涙を一筋一筋丁寧に拭ってやる。

「僕は2人とも大切で可愛い後輩だった。2人だけじゃない、あの学園の生徒を僕は愛した。死んでほしくなかった、生きて欲しかった。笑って生きていてくれたらそれで僕は満足だったのに」