ただ、君の心の片隅に残る存在になりたかった

ブラックリベリオンの後、皇族に復帰した名前の下へ縁談が舞い降りてきた。相手は名門貴族の四男だが、ナイトオブラウンズに任命されるほどの人間。だが、名前はこの縁談が嫌だった。結婚するより何よりも行方の分からなくなっている双子の兄を探したかった。ブラックリベリオンの際に行方が分からなくなった双子の兄、ルルーシュ。彼が居ないだけでこれだけ自分が不安定になるなんて思わなかった。ナナリーでさえ気丈に生きているというのに。自分は寝込んでばかりだ。

「ルルーシュ・・・・」

その名前を口にするだけで守られている気分になる。彼が傍に居てくれる気がする。


愛想笑いを浮かべ、早くこの時間が過ぎることを心から願う。同席していた彼の父親と自分の後見人が席を立ち、見合いでの常套句の「あとは若いもの達だけで」と言って退室した。

「疲れませんか?」
「え?」
「愛想笑い。ずっとしていて疲れませんか?」

気付かれている。目を見開き、彼の言葉への言い訳を考えるが、良い言い訳が出てこない。

「まぁ、いいですけれど。スザクの幼馴染と聞いています」
「口調普通にして下さって結構ですよ」
「あ、本当?実はあまり敬語使うの苦手なんだよねー」
「そうですか。・・・スザクは元気ですか?」
「元気なことは元気だけど、ねぇ」
「何か問題があるのですか?その彼は…イレヴン、ですし…」
「そういう偏見は無いよ。ラウンズの必要条件は『強いこと』だし。スザクの笑ったところを見たことが無いんだよね、俺」

ジノの言葉に名前は再び目を見開いた。あのスザクが笑わない?学園ではあの柔和な笑みを絶やさなかったスザクが?

「姫は見たことがあるんだね」
「えぇ…」
「そっか。笑ったところ見たいな…」
「…貴方ならきっとスザクの良い友人になってくれると思います」


その後、トントン拍子に婚約の話は進んでいった。気付いたときにはもう遅く婚約は決定されていた。皇帝が認めた婚約に異を唱えることは出来ない。幾度目かのお茶会。今日は日差しが良かったので庭で開いた。向かいに座る彼はラウンズの制服を着ている。それは初めてのことだった。

「この後、何処かへ行かれるのですか?」
「…E.U.にちょっと、ね」
「…そうですか。どれほど行かれるのですか?」
「さぁ、相手次第かな」
「ご無事をお祈りします」

ジノにとって名前との縁談は面倒なものだった。主君からの命令とあって断れるわけもなく、渋々会いに行った。そこに居たのはこの世の穢れを全く知らないのではないか、と思うほどの純白の少女がいた。父親たちの会話を聞き流しながらチラチラと向かいに座る名前に視線を送っているとあることに気付いた。彼女が笑っていないことに。その後、何度か会ううちに気付くことが増えた。彼女はいつまでも自分のことを名前で呼ばない。いつまでも敬語で喋る。そして、彼女はいつも悲しそうな瞳をしていることに。そして、自分がこの少女に恋焦がれていることに。

戦場へ行くと言ったときも彼女は然程驚いた表情もせずにただ淡々と社交辞令じみた言葉を述べただけだった。そのことを苦々しく思いながらも、社交辞令でもそう言ってくれただけでも嬉しかった。