誰よりも愛おしい存在だと気付いたとき

ジノがE.U.に出立してから連絡は一切無かった。名前は普段と変わらない生活を送っていた。ナナリーと一緒にお茶をしたり、庭園を散歩したり、何事も無く過ごしていた。そこへある一報が届いた。ジノ・ヴァインベルグが負傷し、本国に戻ってきたという報せを。


後見人やメイドたちに半ば無理矢理の形でジノの見舞いに行くことになった。ジノが入院している病院に着き、従者が看護師にジノの病室を尋ねる。従者の背に付いていく形で名前は歩いていく。案内された部屋は重傷者が入院する棟にあった。そして、ベッドで眠るジノには様々な機械が取り付けられていた。


名前にとってジノは好きか嫌いかと問われると好きの部類に入る存在だった。ルルーシュやスザク、リヴァルとも違うタイプの異性。それなりに好感を持てる男性。しかし、恋愛感情を持ったことは無い。婚約者といっても形ばかりのモノ。人見知りの激しい自分といてもつまらないはずなのに、彼は暇さえあれば会いに来てくれた。満足に外を出歩けない身分である自分のために色々な話をしてくれた。名前もまたポツリポツリと自分の昔の話を語った。いつしか彼と会うことを楽しみにしていたことに彼女は気付いていなかった。


瀕死のジノの様子を見て名前は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。備えてある簡易椅子に腰を下ろし、ジノの顔を見つめる。頭に巻かれた包帯が痛々しい。ただ彼が目覚めるまで待つしかない自分が歯痒い。彼の大きな手に触れる。願うように握る。不意に頭を撫でられる。顔を上げると今まで眠りに着いていたはずのジノが自分の頭を撫でていた。

ぽろぽろと瞳から涙が零れ落ちる。まさか泣かれるとは思っていなかったジノは焦ったように名前を宥める。

「良、かった。無事で・・・」
「心配かけてごめん」

痛む身体を無理矢理起こし、名前を引き寄せる。ジノの温もりを感じ、名前は再び涙を零した。