濡れた瞳に此の姿が映って

誰かの声が聞こえる。止めて、黙って。ルルーシュの遺体が誰かによって運ばれていく。止めて、連れて行かないで。

「――!名前ッ!!」

がくがく、と肩を揺さぶられ向けたくもない意識をそちらに向けると心配したような拘束衣のままのジノが己の肩を掴んでいた。

「は、なして・・・。ルルーシュがいっちゃうの」
「名前」
「ルルーシュを追いかけないと・・。ルルーシュは淋しがり屋だから」
「名前」
「私が傍にいないと」
「名前ッ!目を逸らすな!!ルルーシュは死んだんだ!!」
「違う、あれはルルーシュじゃないわ。だって、ルルーシュが死んだのならどうして私は生きてるの?」

心底不思議そうに首を傾げる名前の瞳にジノの姿は映っていなかった。彼女の瞳には何も映っていなかった。
ジノは愕然とし、ただ彼女を強く強く抱き締めた。




病院へと搬送された名前は両腕と両足を繋がれていた。放っておくと彼女はルルーシュを探しに病室から抜け出そうとするのだ。そして、彼女は罪人でもある。ブリタニア帝国唯一皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの血を分けた双子の妹、名前・ヴィ・ブリタニア。それだけでルルーシュに憎しみを持つ人間の悪意の標的になる。

「何も喋らないのですか?」
「えぇ・・・」

神楽弥は溜息交じりの声でカレンの問いに答えながら視線を話の中心人物である少女の檻の入り口を見やる。カレンもまた名前の病室の扉を眺めながら彼女の婚約者であるジノの姿を脳裏に描く。

「ジノになら反応するのではないでしょうか」
「かもしれません」
「ならば・・・」
「もし、彼女に此処から出してくれと願われた時、彼はそれを拒否出来るでしょうか」
   
それは、と言葉を濁す。ジノは深く名前を愛していた。そんな彼女に頼まれたら彼はどうするだろか・・・・。



多くの人間が眠りに着いた時間。名前の病室に黒に塗れた訪問者がいた。

「名前・・・」
「スザク・・・」

ゼロの仮面を外したスザクは、ゆっくりとした動作で名前を繋いでいるベッドへと歩を進める。

「僕が、憎いかい?」

ふるふる、と頭を振る。

「ルルーシュとスザクが決めたことでしょう。お互いが納得して行ったことでしょう。だから、恨んでないし、憎くも無い。むしろ、ごめんなさい、スザク。貴方に全てを押付けてしまった。私は何も・・出来なかった・・・。ルルーシュの重荷を一緒に持ってあげたかったのに私には何も出来なかった」

顔を覆い涙を流す名前の肩を優しく引き寄せる。

「そんなことないよ。君が傍にいてくれるだけで僕とルルーシュがどれだけ救われたか。だから、君ももう自分に素直になればいいんだよ。ジノの所に戻ってあげて。ジノの隣が君の居場所だ」
「でも、スザク・・・。貴方が一人に・・・・」
「僕はゼロだからね。『英雄』ゼロだから」
「スザク・・・・。 私の初恋は・・・貴方だったよ」
「僕の初恋も・・君だった。名前、最後のお願いがあるんだ。枢木スザクとして最後のお願いだ」
「うん、何でも聞くよ」
「僕はもう二度と君のことを『名前』とは呼べない。そんな僕からの最後のギアスだ」

抱きしめてもいいかい?うん、この世が終わるくらいきつく抱きしめて。