風に揺れて愛した日々さえ色褪せた

下見へと向かう機内でただ窓から漆黒の宇宙を眺める。この宇宙のどこかにある母星に帰りたくて、でも帰れなくて。18歳になってしまった。母星に残してきた弟は15歳になる。平均年齢が30歳のウィンダミア人にとっては折り返し地点だ。身長は追い越されただろうか、声変わりは終わっただろうか、誰か良い縁を築いただろうか。答えの分からない問いをこの7年間繰り返し続けている。

「帰りたい…」

小さく呟いた願いは誰の耳にも届かず消えた。






ウィンダミア人の母はそれなりに地位のある貴族出身だった。平均年齢の短いウィンダミア人は他の人種に比べると早婚だ。貴族階級になると親同士の決めた婚約者がいるのは当たり前で、母も例に漏れず。だが、母は一目惚れした地球人の男性と駆け落ちした。そんな素振りを見せずに唐突に愛娘が手紙を残して消えたのだから祖父母は卒倒したそうだ。地球統合軍のパイロットだった父は違う惑星へ異動後に母を呼び寄せ、2人で静かに過ごしたそうで、母は実父とのことをあまり多く語らなかったが滲み出る幸福感は子供ながらに感じ取れた。だが、その幸せな夫婦生活は父が戦死したことで幕を下ろした。1年にも満たない夫婦生活を強制的に終わらされた母は私を身籠ったまま母星に戻らざるを得なかった。突然消えた愛娘がお腹を大きくさせて戻ってきて祖父母は再び卒倒したらしい。

私を産んだ母は紆余曲折を経て元々の婚約者と再婚した。養父は母を心の底から愛しており、恋敵の子供である私にも実子と変わらぬ愛情を注いでくれた。それは3歳下の弟が生まれてからも変わらずで、里帰りするたびに「私の愛らしい妖精」と親馬鹿ぶりを披露してくれた。

そう、里帰り。5歳の時からとある貴族の家に行儀見習いに預けられた。養父とも親交のあるコンファールト家が行儀見習い先であり、私の嫁ぎ先だった。弟と同い年の婚約者に恥じないように彼の姉たちと花嫁修業をしたのは懐かしい。

独立戦争後、地球人とのハーフである私にウィンダミアは住みにくい星となった。迫害を受け、誹謗中傷の的となった私は父親の親族を頼って母星を飛び立つしか道は無かった。家族を失い嘆き悲しみ地球人を憎む許嫁と弟を残して。