過去でいっぱいの手のひら
「ランラン大丈夫じゃないよね」
「全然大丈夫じゃない」
惑星ヴォルドールへの潜入作戦のためハッキング準備をするレイナとマキナは手を動かしながらもこちらへ視線をやる。フレイヤも同じように私を見てくるので、分かるように溜息を吐く。あの子が不安定なのは誰が見ても分かることだけど、本人がその不調を認めようとはしない。
「今はそっとしておきましょう。触れてほしくない事は誰しもあるでしょう」
「でも…なんだかなまえさん今にも死んでまいそうで…」
フレイヤの不安はケイオス支部全員の心にある不安。儚い容姿とは対照的に戦場に立つ強さが魅力のなまえが今は吹けば消えてしまいそうな雰囲気。中には次の作戦からなまえを外すべきの声も上がっているが本人もそしてアーネスト艦長もこれを良しとしなかった。
「私たちに出来ることはなまえを信じることよ」
水と緑の惑星ヴォルドールへ潜入した私たちは変装を済ませたあと二手に別れて作戦を開始。フレイヤ、ハヤテ、ミラージュの4人で北側から潜入する。美雲もチームメンバーだが単独行動クイーンの姿は既に無い。美雲と色違いのオフショルダーワンピースは肩が露出してて涼しい。
「潜入訓練も受け取るもんね」
「訓練の成果を楽しみにしてるわね」
拳を作るフレイヤは美雲に認めてもらえるよう意気込んでいる。が、ルンが反応し止める間もなく走り出した。
「俺より目立ってんな」
「どうしてみんな…」
「とりあえず追いかけましょう」
ウィンダミアリンゴの匂いに反応したフレイヤのためにリンゴを人数分買った。一口齧ると甘酸っぱい味は懐かしの故郷のもので、じくりと心が血を流す。ヴォルフもボーグもリンゴが好きで、…止めよう。今は作戦に集中しなければ。
「あら…」
悲しい歌声に気づいたのはフレイヤも。彼女はすぐに走り出した。
「相変わらずすぐに行動に移す子ね」
「全く…」
追いかけると子供が2人、木の上から機体に向かってワルキューレの歌を歌っていた。ミラージュがエンブレムを調べた結果、ヴォルドール軍のエースパイロットすら部品扱いするウィンダミアに顔を顰める。皇帝はご存命なのだろうか、確か皇太子はまだ幼かったはず。キース様は王位継承権を返上し騎士となった、あの方の風は澄んでいて気持ちが良いのだ自分もあの様に飛びたい、とボーグの手紙にあったのを思い出す。
ワルキューレの歌を否定されてフレイヤが飛び出すも階下で見知った者が彼女を止める。ここでフレイヤが歌えばパイロットは自我を取り戻すだろうけど、潜入作戦は失敗し帰還出来なくなってしまう。美雲へ銃口を向けるミラージュの銃を下ろす。
「ありがとう美雲。止めてくれて」
「どういたしまして、と言っておきましょうか」
「フレイヤ、貴女の気持ちも分かるわ。けど、ここで貴女が飛び出したら全員の命を脅かす事態になった、そこまで考えた上で飛び出したの?」
「…いいえ」
「貴女の人を思いやる気持ちを否定するわけでは無いの。むしろその気持ちは大事にして欲しいわ」
「はい…なまえさん」
美雲がハヤテとミラージュにツノゼミ型マイクロドローンを見せている間に陰でフレイヤを窘める。この子はウィンダミアで育ったというのに地球人に遺恨を抱えてない稀有な存在。人との交わりに興味のない美雲の隣に立つのにぴったりの子だ。私が居なくなったあとはこの子が美雲と並ぶエースボーカルとなる。そのためにこの作戦でフレイヤに色々と教えていかねば。
次元兵器、銀河条約で使用禁止されている大量破壊兵器。移動中にフレイヤが問いかける。ぎりっと拳が鳴る。あれはウィンダミアではなく地球統合軍が使用したというのに。どれだけウィンダミアが声を上げても統合政府の前には消えてしまう。あの忌まわしい次元兵器は嫁いだばかりの義姉と古い友人を尋ねていた両親を奪った。
「なまえさん…?」
「っ、なんでもないわ」
握りすぎて掌に食い込んだ爪はうっすらと血が滲んでいる。ヴァールをマインドコントロールしているウィンダミアだけど、自国の民を吹き飛ばしたあの忌まわしき兵器を使用するとは思わない、思いたくない。それだけは信じさせて、ボーグ。
180108