a/hanagokoro/novel/1/?index=1
TopMainSS集
もちもちと、まあるい頬を動かしてお雑煮を食す数馬を見て、私の口元は盛大に緩んだ。

「おいしい?」
「うん」
「あ〜!今年もいい正月!」
「うるさいな……」

高らかにそう叫ぶと、煩わしそうな顔をして数馬が私から距離をとる。別に今更そんな些細な事で傷つくわけでもない私は、ご機嫌のまま数馬に雑煮のおかわりをよそった。

「数馬のために沢山作ったんだから今年もいっぱい食べてね!」
「本当に、料理だけは上手いよね、姉さんは」
「数馬の成長の糧になると思ったらいつの間にかこの域に達していたのよ」
「…………」
「醤油とってくれ」

父様に醤油を渡したついでに、数馬の好物を取りやすい位置に移動していると、母様が煮豆を食べながらしみじみと息をつく。

「でもこのおせちや雑煮とも今年でお別れねえ」
「やだ、まだ決まっていないですからね母様」
「決めてくれないと困るのよ」

ほぼほぼ話が固まりかけている縁談を思い出して、数馬が家にいるというのに気分が落ち込む。別に、お相手が嫌なわけじゃないけれど。むしろ弟を溺愛しすぎて変人扱いされている私を笑って受け入れてくれる人だけれど。私と母様がああでもないこうでもないと縁談の話を繰り広げていると、静かだった数馬が「べつに、」と、どこか不貞腐れた声を出した。

「お正月くらいは、帰ってくればいいじゃん」

とんがった口から零れたかわいらしい言い草に、思わず固まる。幼いころ一人で留守番を任された数馬がこんな顔をしていたわ、と懐かしい記憶が駆け巡った。今のは、走馬灯だろうか。

「か…かあさま…私、嫁には行きません…」
「ふざけたことを言うんじゃありません」
「数馬がお嫁に行ってほしくないって!私行かない!!」
「ば、馬鹿姉!そんなこと言ってないだろ!?」
「でもそういうことでしょう!?」

お茶を啜った父様は、「賑やかだな」と今年も訪れた日常を確かめたように呟いた。


茹でて煮て妬いて


prev │ main │ next