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長期間の休みに彼が帰ってくるたび、庄ちゃんなんて呼んでいいのか分からなくなった。
庄ちゃんってなんか、あれだよね、この年齢になると…、なんてわざわざ話題に上げたいわけでもなかったのに、ほんの数秒の沈黙に耐えきれなくて濁った言葉がまろびでた。庄ちゃんは瞬きも身じろぎもせずに、私の言葉に耳を傾けていた。

「じゃあなんて呼ぶつもり?」
「それは……、庄左ヱ門さん…とか」

自分で言っておいて異物感しかない響きに、自然と声が小さくなっていく。私はいったい何がしたいんだか。庄ちゃんはふむ、と顎に手を当てて考え込むそぶりをしてから、なんてことないように私を見つめた。

「それも悪くないけど、庄ちゃんのお嫁さんになるって言ってたんだから、結婚しても庄ちゃんって呼んでよ」
「……なんか、前提がおかしいんだけど…えっ?」

庄ちゃんは真顔で冗談をいう事もあるからまた私を笑わせようとしているのかと思って、あまり動揺せずに突っ込んでみる。いや、隠しきれてはいないのだが。庄ちゃんの、冗談だよという言葉を待ってしばし見つめあっていたのだが、一向にそれが紡がれることはなく。口内が乾いていくのが分かった。

「い、いつの話して……そんな昔のこと、」
「ぼくは、そんな昔の約束をずっと大事にしていたよ。…いけない?」
「い……」

こんなに長く傍にいたのに、重要なことを私は見落としすぎていたのだろう。庄ちゃんは昔から私に、冗談は言っても嘘はつかない。だから、あの時お嫁さんになるといった私に、庄ちゃんがうんと応えたのならそれは確かな了承だ。そして、今の今まで庄ちゃんはあの頃と変わらず、ずっと庄ちゃんで。背丈が変わっても声が低くなっても手が大きくなっても、照れくさく頷いてくれたままの、

「いけなくないよ……」

涙ぐんだ私の声に、庄ちゃんは「よかった」と笑った。私の目尻を撫でた指先は、覚えしかない優しい手つきだった。


忘れないで、白詰草


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