朝、雨雲がかかっていると分かっていながら折りたたみも持たずに出てきたのは私の怠惰。
会社を出て、ああやっぱりと思ったけど反省の兆しは特になかった。あめ、とだけ打ち込んで送信してから帰りの電車に乗り込む。ぱらぱらと電車の窓を叩く雨粒を見ながら、いつもより跳ねている髪の毛に梅雨への恨みが募った。
最寄りの駅に着いて、水気を含む冷たい風に吹かれながら適当な屋根の下で待ってると、目立つ長身が視界の端に映る。少し離れた彼と目線が合ってしまうのが気恥ずかしくて、いやだったから、わざと手元に視線を落として近づいてくるのを待つ。
「雨いやねェ」
大きな影がさして、顔を上げる。その顔を見て、声を聞いた途端、仕事モードだった体から力が抜けていくのを感じた。この顔でほっとしてしまう自分がいるだなんて、悔しい。
無意味で些細な抵抗として、かけられた言葉にはため息で返した。
「まァ、お迎えも悪くないけどね」
「…あっそ」
同意してやるものか、と顔を背けて意味もなく近くの看板を見つめる。私が折りたたみを持っていかないのは、ただの怠惰だ。決して他意がある訳では無い。そう言い聞かせる。
はい、と私に傾けられた傘に入って、ぱちゃぱちゃと足元の水を跳ねさせる。他の傘に比べれば、サイズの大きいビニール傘だったが、それでもデカブツと入ると少し狭かった。
「なんで傘二本持ってこないの」
「どうせ車までだしと思って」
「それで濡れたら元も子もないでしょ」
反対側の入りきってない肩を一瞥して、だいぶ私の方に傾いた傘に眉を顰める。
「でも、ねェ?」
「なに」
「この方が話しやすいし」
「……どうせ車までなんでしょ」
別に、嫌なわけじゃない。そんな気持ちも見透かされてるようで、耳が熱くなる。
本当は、少しだけ触れた肩にそのまま寄りかかってしまいたかった。
梅雨は嫌いだ。髪は跳ねるし、じめじめするし、傘を持ち歩くのは面倒だし。
でも、迎えを頼める口実とか、一緒の傘に入れるこの時間を、どこか私も悪くないと不本意ながら思っている。チープなビニール傘が世界を彩る透明なフィルムのように思えるのだから、多分私だってご機嫌になってしまっているのだ。
認めたくないけれど。
見抜かないで
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