a/hanagokoro/novel/1/?index=1
TopMainSS集
私が屋根から下ろした雪で留三郎を生き埋めにするところだったのがつい先の事。久しぶりに帰ってきた幼馴染の留三郎は、私から木鋤をかっさらうとせっせと雪を下ろした。
仕事を押し付けるような真似は忍びなくて私も結構渋ったのだが、甘酒温めといてくれ、なんて笑顔で言われては断ることも出来ず。冷えた体で戻ってくるであろう留三郎のために火鉢にどかどかと炭を足していると、がらりと戸が開いた。

「お疲れ様。ありがとうね、留三郎」
「これくらいなんてことねえよ」

藁蓑と深履を脱いだ留三郎は凍えた様子も見せずに、私の近くへと腰を下ろした。なんだかまた身長が伸びた気がする。

「おれがいる間は呼べよ。雪かきとか、力仕事」
「そんな留三郎に頼りきりって訳にもいかないよ」
「別におれは構わない」
「そうは言ってもね」

私が差し出した甘酒に口をつけながら、留三郎は少し拗ねたようにこちらを見つめた。

「これから先、留三郎がずっといるわけじゃないんだから」

自分で口にしたことだけれど、寂しくて泣いちゃいそうだった。留三郎には忍者になるっていう夢があって、この村を出ていってしまうかもしれなくて、そもそも私は赤の他人で。いくら留三郎が世話焼きだからってそこまで負担をかけるつもりは毛頭ない。つんと涙がせり上がる感覚をごまかすように、私はぱちぱちと爆ぜる炭を見つめた。

「……おれは、ずっといるつもりだった」
「…え?」

留三郎のひんやりした手が重なる。驚いて顔を上げると、真剣なひとみに射抜かれた。

「雪下ろしも、力仕事も、おれがやりたいんだよ。それが終わったらおまえの甘酒が飲みたい。これから先、ずっとそうありたい。…だめか?」

答えは言葉にならなくて、涙と共に喉につっかえるので必死に首を横に振った。
両親が他界し、がらんとしたこの家に温かさなど一度も感じたことはなかった。けれど、留三郎と一緒に暮らせる未来があるのかと思うと、そう寂しい空間でもないのかもしれない。重ねられた留三郎の手は大きくて、ただただ安堵が溢れた。


未来にいさせて


prev │ main │ next