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「おはよー」
「…おはよう」

寒いね、なんて言いながら挨拶を交わすと、彼女は寒さに鼻の頭を赤くしながらはにかんだ。せっかちな性分ではないタカ丸は本当ならばゆっくり話をしながら、とでもいきたかったが、なにせ今日は時間がない。テキパキと動くタカ丸を、どこか彼女は意外そうに見つめていた。

「タカ丸くんは来るの?」
「んー、式には間に合わないかも」
「そうなんだ」

衿元を丁寧に合わせて腰紐をきつく締める。生涯に一度の晴れ舞台。とびきり綺麗にしてあげたい、いやしなければという使命感があった。

「苦しくない?」
「うん。大丈夫」

メイクはしてくる、と言っていたので化粧が施された彼女の瞼の輝きをどこかぼんやり見つめる。中学生の時だって彼女は愛らしかったが、それに綺麗と言う要素も加わって大人びた彼女は、知らない人のようでもあった。

「やっぱ好きだなあ」
「…へ?」
「タカ丸くんの真剣な顔」

不意を突かれて手元の帯締めがぽとりと床に落ちるので、慌てて拾い上げる。何か言葉を返そうと口をぱくぱくさせていると、彼女はにっこりと微笑んだ。タカ丸は昔と同じく何も言えなくなった。着付けを終えると、彼女は「重いね」と苦笑する。

「でも、綺麗だよ。すっごく」
「着付け師の腕がいいから」
「も〜」

きらきらと髪飾りを揺らしながら、彼女が真っすぐとこちらを見つめる。

「待ってるね」

正直、出る理由がそんなにないと感じていたタカ丸はいつも通り仕事を一日こなすでもいいと思っていた。しかし、彼女にそんな風に言われては敵わない。タカ丸の口から力ない笑みが漏れ出た。彼女は昔から無敵だ。


ああかたなし


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