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米を持ち上げたその体がぐらりと傾いて、小平太は素早く手を伸ばした。

「姉上、大丈夫か」

働き者の姉の姿が見えないと思い、探しに来てみればこれだ。姉の腕から米を抜き取って小平太が軽々と持ち上げれば、手持ち無沙汰になった姉が朗らかに笑った。

「ありがとう、小平太。助かったわ」
「無理は禁物だって、母上も言ってただろう」

姉は身重の体だった。だからこういった行動はできれば自粛してほしいのだが、中々そうもいかないようで。

「こういった時は私を呼んでくれ」
「ふふ、そうね。この家には力持ちさんがいるのを忘れてたわ」

その懐かしむような声音に、すうすうと胸に冷たい風が吹き抜けていくような心地がした。
姉と会うのは久しぶりだった。既に嫁いでしまっている姉と会えるのは、今日のような正月くらいなもの。こうして久しく会うたびに姉はもう他家の人間なのだと思い知らされるようだった。
けれど、それでも。自身がこの人の弟であることは変わらない事実のはずだ。

「…呼んでくれれば、姉上たちの家でも行くぞ」

思わず、少し拗ねた声音が出てしまった自覚はあった。すると姉はきょとんとした表情を見せてから、とびきり柔らかい笑みを浮かべて小平太の背を撫でた。

「そんな風に言ってくれる弟を持って、幸せ者ね。私って」

昔から姉は小平太のことをよく褒めてくれる人だった。だからそれと変わらない調子で今も言われていることに気づいてしまい、さすがに恥ずかしさが募る。これでは自分が駄々をこねたのと変わらない。

「まあうちの人はあの通り非力だからねえ…本当に小平太を呼ぶことも、」
「あっ、こんなところにいたのか!ダメじゃないか動き回っちゃ!」
「あら、噂をすれば」

飛び出してきた姉の夫、義兄は姉に駆け寄ると、心配そうに姉を気遣った。その光景に、さびしさのようなものもあった気はしたが、多くは安堵が小平太の心を占めた。笑みは自然とこぼれていた。

「確かに義兄上は細いからなー」
「えっ何の話!?そりゃ小平太くんには到底敵わないだろうけど…」
「あなたが一生は励んでも小平太には敵わないでしょうね…」
「だから何の話!?」


いつまでも柔らかいひと


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