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TopMain恋情ブレンド
いつもどおり業務をこなしていたある日、執務室にノックの音が響いて「どうぞー」とクザンさんが間延びした返事をすると開かれるドア。そこに立っていた人物に、私の心臓は大げさなほど跳ねた。

「す、スモーカー大佐!」

私の上ずった声にクザンさんから訝しげな視線を飛ばされたが、今はそれどころではない。汚くなっていた机の上の書類をがさがさと雑に片づけて、見た目を取り繕う。

「お、お久しぶりです、本部にいらしてたんですね」
「ああ。急に来て悪いな、少し話があって来た」
「クザンさんに?あ、どうぞおかけになってください」

ソファへと促しながら、私は来客用のお菓子を棚から取り出す。スモーカー大佐は菓子を好むようなタイプではないのは分かっていたが、一応形式的にだ。私がお菓子をテーブルの上に置き、スモーカー大佐がソファに腰掛けたのを見計らってから、黙っていたクザンさんが口を開いた。

「話って?わざわざ来るなんて珍しいじゃねェの」

本題に入ろうとしている空気に、私は気まずさを覚えて控えめに声をかける。

「…あの、よろしければ私席を外しましょうか?」
「いや別にいてくれて構わねェ」
「あ、じゃあ、えと、コーヒー淹れてきます」
「すぐ済むから大丈夫だ」
「そ、そうですか」

私の提案は全てスモーカー大佐に却下されてしまったので、居心地が悪いまま部屋の隅へと移動する。だが話の内容は軽い業務連絡と、今スモーカー大佐が追っている麦わらの一味についてで、特に重い内容でも何でなかったことにほっとする。聞いてはいけない内容だったらどうしようかと思った。
黙ってクザンさんの横でスモーカー大佐の話を聞いていると、すぐ済むと言った言葉通り手短に話は終わり、用件が済んだとばかりにスモーカー大佐が席を立つ。

「あっ、もう行かれるんですか?」
「長居する用もないんでな。邪魔した」
「いえ、いつでもいらしてください」

ジャケットを羽織って颯爽と去っていく背中に惚れ惚れしつつ扉が閉まっても見つめ続けていると、不機嫌そうなクザンさんの声が後ろから飛んでくる。

「…前から思ってたけど名前ちゃんさァ、スモーカーに対してだけ態度違くない?」
「そ、そうですか?」

やはり分かりやすかったか、と顔に熱が集まるのを感じながら視線を逸らす。だめだ。こんな分かりやすい誤魔化し方ではクザンさんを出し抜けない。

「…名前ちゃんってスモーカーみたいのがタイプなのね」
「タイプっていうか…憧れに近いっていうか、あのワイルドな感じがかっこよくないですか?」
「べつに」

クザンさんは拗ねたように口を尖らせて投げやりに答える。おそらく私が身近なクザンさんよりも、スモーカー大佐にきゃいきゃいしている様子が気に入らないのだろう。だからってこんな子供じみた態度をとらなくてもいいものを、と内心呆れる。

「おれというものがいながら、名前ちゃんの浮気者」
「浮気って…」
「も〜浮気者の名前ちゃんなんておれ知らない。本当はおれなんかよりスモーカーの部下になりたいんでしょ〜」

えーん、と机に伏せて泣き真似をするクザンさん。盛大に面倒だな、と心の底から思ったが、とりあえず機嫌を直して早く仕事に戻って欲しかった私はクザンさんの傍に歩み寄る。

「もう、機嫌なおしてくださいよ。大体、私がスモーカー大佐の所に行ったら誰がクザンさんの面倒見るんですか?スモーカー大佐のところに行ったりなんかしませんよ別に。ほら、仕事の続きしてください」
「……きゅんとした」
「はい?」

体を起こしたクザンさんは訳の分からないことを呟いて、私の手をぎゅっと握る。

「名前ちゃん、ずっとおれの秘書でいてね」
「はあ…、まあ可能な限りは続けますよ」

今クザンさんの秘書を私がやめたとしたらセンゴクさんが胃を痛める事態になりかねない。センゴクさんや周りの人のためにもできる限りは秘書を続ける、というのは紛れもない本音だった。
私の答えにクザンさんは機嫌を良くしたのか、先ほどまでの態度がウソのように仕事をるんるんとし始めるのだった。クザンさんの機嫌のアップダウンが、いまいちよく分からない。


恋情ブレンド 2話


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