満天の星屑




夜、食堂はとても賑わっていた。

明後日のウォール・マリア奪還作戦の奮起のため、豪華な食事がテーブルを埋め尽くしていた。

普段見ない肉料理も沢山あった。

皆が、希望を見出して乾杯し合っていた。





クララも料理を出すのに慌ただしく働いていた。

こんなにも忙しいのは初めてだった。

それに、エルヴィンと衝突した後の事だったので、何も考えたくない自分もいて、わざと忙しくしている節もあった。

宴会はまだまだ続いていたが、大方の料理が出し終わり、調理場で片付けに取り掛かっていた時、エルヴィンがカウンターにやってきては自分の名を呼ぶ。


「クララ。」


クララは一瞬ビクッとするが、顔も上げずその声を無視する。


「クララ、少し来て欲しい。話がしたい。」


少し怒ったようにも聞こえる声。


「・・・いいえ、私には話す事なんてないわ。」


目もくれず、クララは小さな声で端的に話す。


「さっきはすまなかった。
君が怒るのも無理ないが、私は今話したい。」


「クララさん・・・」


横でティアナが心配そうに言う。


「今・・・忙しいの。
ティアナ一人には出来ない・・・」


背を向け、調理場の奥へ逃げようとする。

エルヴィンは痺れを切らし、調理場の中までやって来ては、クララの腕を引っ張る。

目が合ったエルヴィンは、酷く怒ったような顔をしていた。

見たことも無いような険しい顔にクララは怯むが、負けじと答える。


「やめて!」

「悪い、ティアナ。クララを少し借りる。」


エルヴィンは抵抗するクララにはお構いなしに、力強く腕を引っ張り外へ連れ出す。

食堂は、各々が盛り上がっていたので、そんな調理場の様子には目もくれていなかった。






「痛い!やめてってば!」

「こうでもしないと、話も出来ないだろう!?」


明らかに苛立っているエルヴィン。

外の空気がツンと鼻に付く。


「だって・・・、私は話したくない!」

「いい加減にしろ!」


エルヴィンは、無理矢理クララの唇に強引なキスを落として黙らせる。

クララはやめてと言わんばかりにエルヴィンの分厚い胸を叩くが、右手を失ったとはいえ、鍛え上げた力の前にはとてもクララごときの力では抵抗できるようなものではなかった。


「・・・んはぁっ・・・」


息苦しさから解放されたクララは、大きく雪崩れ込むように息をする。

それを左手で優しく受け止めるエルヴィン。

そして、切なくも愛おしい目で見つめては言う。


「頼むから、少し付き合って欲しい。」


そんなエルヴィンの眼差しに、クララには、もう抵抗する意思は残されていなかった。






馬の後ろに乗せられ、小高い丘を駆け上る。

この場所は知っている。

去年の自分の誕生日に連れて来られた場所だ。

こんな所に連れて来てどうするつもり?





ふと、エルヴィンの着ているジャケットの背中に縫い付けられた、調査兵団の紋章が目に入る。

自由の翼。

いつも、毎日眺めているこの紋章。

何故か今はこの紋章から目が離せない。





そうだ、思い出した。





クララは以前見た光景をフラッシュバックさせていた。





あの時の高台・・・





慰霊所でのマントの彼。





“あぁ、あの時の青い瞳の彼は、あなただったのね”






星空がパノラマ状に見える特等席に着いたのに、そんな星空には目もくれず、エルヴィンはクララをおもむろに抱き締める。


「どうしても、また君とここに来たかった。」


そう言うエルヴィン。


「自分が我儘を言っているのも、無茶をしようとしているのも、本当は良く分かっている。
君が怒るのも無理ないし、反対を押し切って自分を貫き通そうとしている私を、許して貰えるとも思っていない。
だけど、それでも、君の笑顔が見たい。
君の声が聞きたい。
君を抱き締めたい。
君無しでは気が狂いそうなんだ。
本当に、我儘ですまない。
でも今日は、どうしても君とここに来たかったんだ。」


切迫したような、今にも泣きそうな小さな声で耳元で囁くエルヴィン。

突然のことにクララは驚くが、胸がぎゅっと締め付けられ、抱き締められている存在を強く抱き締め返す。


「私だって、あなたが居ないと気が狂いそう。
だから本当に今度の作戦には行って欲しくない・・・」


エルヴィンもまた、更に抱き締める力を強める。





しばらくすると、クララは抱き締めていた手を緩め、真っ直ぐな瞳で顔を見上げる。


「でも・・・
私があなたと知り合った時から、あなたは自由の翼を背負っていた。
そして、それは変えられることの出来ない運命。
私にはとやかく言う権利なんてないわ。」


クララは、あの絶望に打ちひしがれて立っていた時に見つけた、慰霊所でのエルヴィンの瞳を思い出す。

そう、あの時紛れもなく青い瞳の彼は、力強く未来を見据えていた。

そして、





“決して希望を忘れないように”





・・・そう言った。





「あなたに怒ってるんじゃない。
あなたを快く送り出せない自分に苛立ってるのかもしれない。
そんな私を許して・・・」


ポロリと涙が溢れる。






「泣かないでくれ。」


エルヴィンは左手で抱き締めながら、クララの瞼にキスする。


「・・・やだ、しょっぱいよ?」

「そうだね。」


そう言いながらも、エルヴィンは顔を逸らそうとするクララへのキスを止めない。

そんなエルヴィンの仕草にクララは自分を抑えられなくなり、エルヴィンの首に抱き付いては、深いキスを求める。

エルヴィンは、微笑みながらそれに優しく応える。





ねぇ、エルヴィン・・・





私、あなたのこと・・・










原っぱに腰掛け、クララはエルヴィンを押し倒すような格好でキスを続ける。


「エルヴィン・・・」


潤んだ瞳で名前を呼ぶ。


「今、あなたと繋がりたい。」


そう小さく話すと、エルヴィンは優しく微笑みながら答える。


「ああ。俺も君が欲しい。」






以前のように、肌をさらけ出し、求めあう二人。

だが以前と違うのは、押し倒されているのはエルヴィンで、クララがエルヴィンの上にまたがり、キスの雨を落としている。



いつもエルヴィンが自分にするように

舌を吸い上げて

唇を甘噛みして

首筋にキスをしたり

胸元にチュウっと吸い付き痕を付けたり・・・





左手でクララの髪を撫でながら、エルヴィンは愛おしい眼差しでクララの愛撫を受け入れていた。





クララがエルヴィンのベルトとズボンのチャックを下ろし、はち切れんばかりに大きくなったエルヴィン自身を取り出すと、下着を取った自分の秘部にあてがう。

そして、ゆっくりと中へ導いては、温かさを感じ合う。

月明かりを背景に自分の上にまたがるクララは、とても艶かしくて情緒的で、言葉にならないくらい美しい。


「クララ・・・綺麗だよ。」


そうポツリと呟くと、クララは照れたように顔を赤らめる。


「エルヴィン・・・好きよ。」


そう頬を撫でながら言っては、クララはエルヴィンに優しいキスを落とした。






自分から求めることを最初は躊躇いながらも、次第に自身の中で圧迫するエルヴィン自身を感じると、クララは我を忘れてしまう。

もう何も恥じらうものなどない。

クララは狂ったようにエルヴィンを求め、彼の名を何度も呼んでいた。





呼吸が速くなり絶頂が近くなってきた頃、エルヴィンもまた自身の限界が近づいていた。


「・・・クララ、一端離れて・・・
このままだと、中でイッてしまう・・・」


荒い呼吸の合間にそう言っては、自分にまたがって快楽に溺れるクララを制止させようとする。

だがクララはそれを許さない。


「・・・やだ・・・
このまま・・・きて・・・
あなたを・・・、受け止めたい・・・」


クララは潤んだ瞳で、首をイヤイヤと振りながら腰の動きをさらに早めてエルヴィンを求める。


「・・・クララ」

「エル・・・ヴィン・・・あぁっ・・・」


途端に、クララは全身でエルヴィンを感じては痙攣し、この上ない快感をその華奢な身体で受け止めていた。

エルヴィンもまた、そんなクララを眺めがら、自身を締め付けるクララの中で力尽きていた。






力尽きた二人は、荒くなった呼吸を整えながら、原っぱに寝そべり満天の星屑を見つめていた。

それは、去年見た星空と同じ輝き。

満天の星屑たちは、去年と同じように、二人を愛でるように優しく見守っていた。





呼吸が落ち着いてきた頃、エルヴィンは脱ぎ捨ててあったジャケットの内ポケットからあるものを取り出す。


どうしたのだろう・・・?


クララはエルヴィンの様子を不思議そうに見つめていた。

すると、まだ寝そべるクララの上半身をそっと起こしては、優しくキスをする。

唇が離れると、極上の甘い笑顔がクララの目の前に現れる。

そして、そっと先程取り出したものを、左手と口で器用にクララの首元に取り付ける。

それは、小さな鍵のチャームが付いたペンダントだった。


「えっ・・・」


クララは目を見張った。

その鍵の中央には、透き通ったブルーの宝石が埋め込まれている。

それはまるで、エルヴィンの瞳の色のよう。

突然の思いがけないエルヴィンの行動に、クララは驚きを隠せないでいた。

エルヴィンはそれを見て微笑む。


「そう言えば、今まで君にプレゼントなどしたことなかったな・・・」


そう優しく言っては、クララの髪を撫でる。


「いいえ、あなたにはいつも沢山のものを貰ってるわ。
でも・・・嬉しい。」


ペンダントを見つめては、ぎゅっとそれを握り締める。

そしてクララの胸の中も、ぎゅっと締め付けられるような感覚に陥っていた。






クララは潤んだ瞳でエルヴィンを抱き締める。


「エルヴィン・・・
ありがとう、大切にするね。」


エルヴィンは目を瞑り、何も言わずクララを抱き締め返す。













そして、クララには聞こえないくらいの





本当に小さな小さな声で・・・





そっと囁いた。















「クララ・・・愛しているよ。」









花季 -hanagoyomi-