没まとめI〜K


I 狩人の××



その生きざまこそが美しい。
──それは果たして誰が呟いた言葉だったか。デュースはどうしてか思い出せずにいる。




J じげんせつぞく



珍しく学園全体での集会が行われた。例外なく闇の鏡の間に招集された生徒たちは気怠さを隠そうともせずに各寮ごとに集まっている。
何かと問題ごとや厄介ごとの発生率が非常に高いNRC。遂に教員たちも釘を刺さねばと動き出したのだ。まあ、どれほど言葉を尽くそうと、糠に釘、暖簾に腕押しであろうが。

──事件はその集会の真っ只中に起きてしまった。
突如として光を放つ闇の鏡。浮かび上がるシルエット。時間にしてわずか数秒の間に一つの人影が出現した。鈍い音を立ててその人影は床に沈む。カラン、と。金属製の何かが床にぶつかる音がした。
マジカルペンやそれぞれの魔道具を構えた一部の生徒と教師陣は、一拍置いて息を呑んだ。その人物は血だらけだったのだ。しかし警戒は更に強まる。何故ならば、突如として出現した人物は短銃と細い剣を所持していたのだから。いくら意識のない状態だと見て取れても警戒を解く者はいない。

そして──不幸にも闇の鏡からさほど遠くない場所に居たデュースは、血の気の退くような感覚に襲われていた。己の喉が引き攣るのを自覚して息苦しさに喘ぐ。
前に立つ生徒たちを掻き分けるように動き出したのは無意識だった。

「ど、いて、くれっ……どけっ!」

上手く息が出来ない。目の奥が熱い。
何故、彼がこの場所に居る。この世界には存在しないはずの彼が、此処に居る。それも明らかに重傷の状態で、──刀剣破壊寸前の状態で。
自身の中に根付く記憶と、寸分違わぬその姿。懐かしさを覚える暇すらなくデュースは膝が崩れそうになりながら彼の元へと辿り着く。

「陸奥守……!」

自身の刀剣男士である可能性は限りなく低い。しかし満身創痍な姿を前にして手を伸ばさずには居られなかった。



2021.7.10.
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本編では絶対に書かない話なので。そもそも刀剣男士の登場は、あってもあと一回くらいです。




K やっかみ




どこから取り出したのか、いつの間にか男の手には鉄パイプが握られていた。振り下ろされるソレは嫌になるほど正確にデュースの頭部を狙っている。絞りだされるように怨嗟の念が込められた言葉が吐き出された。

「何っで、テメェだけ、上手くいってんだよ……!!」
「デュースッ!」

少し離れた場所で悲鳴のような声を上げたのは果たして誰だったのか。それを確認する間もなく、デュースが頭を庇うように左腕を上げたのは反射だった。ガキンッ! 凡そ人体が発生させるはずのない音が響く。驚愕に目を見開いたのは害をなそうとした男、そして周囲で凶行を目撃していた者たちである。
え、何、アイツの腕は金属で出来ているのか?
普段から突拍子もないことをしでかすという認識をされつつあるデュースである。あながち間違いでもないかもしれない。そんな、何とも言えない空気が流れた。
──だが残念ながらデュースの腕は金属で出来ているわけではない。しかし鉄の素材は制服の下に存在していた。魔道具でもあり、霊具でもある手甲。防具とも成り得る。護身のためのものだ。それをもってしても、力の限りに振り下ろされた鉄パイプの衝撃を完全に和らげることは出来ていないだろう。痣になっていなければいいが、と頭の隅で考えたデュースは冷え切った目を細めた。その眼差しは完全に男を見下している。

「随分と、まあ、ド派手にやらかしてくれるじゃないか」

理不尽に暴力にさらされて怒らない方が無理、というものだ。要は頭にきていた。



2021.7.23.
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本当はハロウィンの小話で、元同級生的なヤンチャしていた頃の知り合いから理不尽かつ八つ当たりのような襲撃を受けるエピソードを入れようとしていてすっかり忘れていたやつ。結局書かなかったので没扱い。