クルーウェルや立葵たちの元から一度は離れたデュースだったが、雷を落とした後ひょっこりと合流した。後始末を済ませてからだったため多少時間はかかったが。
その際に何とも言い難い目を向けられてしまうが些事である。それを黙殺してデュースは帰還方法について話題に上らせた。
「政府と連絡は?」
「んんん、無理っぽい。何かチラチラ通信が取れそうな状態になるんだけど……」
「全然安定しないですね」
「……おそらくそう時間を置かないで安定するだろうから、その時にもう一度試してみればいいんじゃないか?」
気をもんだ様子の立葵と堀川にデュースは予想を交えて告げる。
鎮火するまではそれなりの時間を必要とするのだ。それまではどれだけ試そうと不安定なままだろう。そう聞いた立葵は僅かに気落ちした様子で諦めると小さく頷いた。
次いで遠くへ視線を向け、多少勢いが落ちた炎の様子を憮然と見つめる。
「……それにしても、あの藤の木すっげぇ広がってたんだな」
「年季が入っていたわけではないけど、まあ確かに広範囲だったか」
「オレさぁ、未だになぁんでオレがこんなことに巻き込まれたのか全っ然わかんないんだけど」
納得がいかない、そう声色は告げていた。どんな表情が浮かんでいるのか顔を見なくともわかる。
デュースは小さく肩をすくめて頭の中で言葉をまとめ始める。彼でも分かりやすいように簡単な言葉で伝えるにはどう説明したものか。思考の後にこう解説するのだった。
「行方不明者たち自身にほとんど共通点が無い、って言うんだったらおそらくは要因は別にあるわけだ」
「ええと?」
「あーつまり、たまたま、偶然、何かしらの条件と合致してしまったからキミは藤に引っ張られた、ってこと」
「は?」
「もっとわかりやすく言うなら「運が悪かったね」ってこと」
立葵はその言葉を理解するのにたっぷり十秒はかかった。たまたま、偶然、運が悪かった、つまりは──この場に引きずり込まれるのは誰でも良かった。立葵でなくともよかったのだ。
何か言いたかったのだろう。はくり、口を開閉させるが言葉が出てこない。そして。
「何だよそれぇぇええ!」
泣きが入った情けない叫びが炎に呑み込まれて消えた。呼応するようにぱちりと火の粉が爆ぜる。
「まあ、この世界って大体はそういうもんだぞ」
「何それ何それ恐いんだけど本当にやめて無理無理無理」
「審神者なら巻き込まれないとは言い切れないんだから、ある意味今回は良い経験だったんじゃない?」
「んな! 良い経験なわけあるかよぉ!」
現役の新米審神者と前々世に強制退場させられた審神者。その妙に緩さを感じさせられる会話を堀川と愛染はただただ見守っていた。
そうこうする間に、炎が下火になりつつある。誰が口にするでもなく各々が気づいていた。視線が自然に残った炎と燃え尽きる直前の樹木に向けられる。
藤の花の特徴的な垂れ下がる花房。蝶のような形をした小さな花を一度に幾つも咲かせるそれが、全て潰えようとしていた。一際大きな花房の集まりが音を立てて崩れ落ちる。その拍子にひらりひらりと花弁が舞った。──いや、羽ばたいている。
よくよく見れば小さな蝶が宙に羽を広げていた。チラチラと光を反射する白っぽい羽。その表は青紫色が鮮やかな蝶──ツバメシジミ。幼虫はマメ科の植物の花やつぼみ、新芽を食む。そんな昆虫だ。
あの藤に蝶の幼虫が居ついていたのか、そう思いかけデュースはハッと顔を強張らせた。
此処は、本丸は、どれだけ在り方を寄せようとも常世とは一線を画した場所だ。入り込める生物は限られている。そんな幽世とも言える場所に何故居るのか。
(……嫌なモノではなさそうだけど、何だこの変にぞわぞわする感じ)
何と無しにベルトに刺したままの三日月に手を伸ばし、ふと違和感を覚える。先ほどまでは感じた存在が居なくなっているかのような空虚感。蝶への疑問など吹き飛んでしまった。
ジッと見据えて、そしてデュースは嘆息する。三日月の気配が消え失せていたのだ。これで完全に事が終わったように思えて、もう一度深く息を吐いた。
「あ! 主さん見てくれ、空の端が明るくなってきてる」
「本当だ!」
「ううん、ここって時間の概念はどうなってるんでしょうか」
薄らと空の端に見えた明けの陽光に声を上げたのは愛染だ。つられて立葵が無邪気に笑う。
その様子を横目で見て、デュースは三日月に見せられたこの本丸の過去を思い出していた。本丸が遡行軍の襲撃を受けてからはずっと夜のまま。
──その夜に閉ざされたままだった本丸に、ようやく長い夜の終わりが来たのだ。
眩しさに目を細めてデュースは抜け殻となった三日月の鞘を撫でた。
ひと段落したころ、デュースと堀川は本丸跡地を見回っていた。元凶が消えたことにより何か変化が無いか、帰るための足掛かりになりはしないか、といった考えからである。
結論から言えば異変はすぐに見つかった。デュースの視界には鳥居の向こうに道が増えていたのだ。すぐさま離れていた二人と一振りを呼び寄せる。しかしそこでデュース達と立葵達との差がはっきりと明確なものとなった。本丸の外に続いている道は立葵と二振りには見えないらしい。
(……縁のない異世界に繋がる道は視えない、か。なるほどね)
うんうん、とデュースは小さく頷きながら、ホッとした様子で帰り道と思しき道を見つめているクルーウェルに問いかけた。
「どの道を行けば良いんでしょうね、これ」
首を傾げての問いにクルーウェルは訝し気に眉を動かした。何を言っているんだ? と言わんばかりの表情。
「道は一つしかないだろう」
その言葉にデュースは僅かに息を詰めへらりと曖昧に笑った。
成る程、と納得して複数の道から視線を逸らす。──どこにでも在るがどこにも無い。どこにでも繋がるがどこにも繋がらない。マヨヒガとは、時空の狭間とは、つまりそういうものだった。
デュースは過去生の記憶を得ているが故に、過去と縁との繋がりが強まっていた。クルーウェルが一本道だと言ったはずの場所に道が複数見えたのはその所為なのだろう。……どうやら帰りはクルーウェルに案内を頼んだ方がよさそうだ。
「あっ、政府の方と連絡が取れました!」
「マジで!? 良かったー!!」
明るい堀川の声に立葵は諸手を挙げて喜びをあらわにした。うっすらと目端に涙すら滲んでいる。着実に帰還の目途が立ちつつあることを感じて、最後まで張り詰めていた緊張の糸が緩んでいく。
空の端が赤みを帯びて太陽が顔をのぞかせている。朝焼けだった。その光に照らされて焼け焦げた本丸の亡骸がただ静かに横たわっていた。
──そろそろ潮時だろう。思うことが零ではないが、デュースはこの場に長居するつもりも無かった。時間が経てば経つほど元の世界に戻れる確率も下がる。チラリと視線を自身の左腰に落として、三日月宗近をベルトから抜き取る。
デュースは僅かな思考の後、空っぽになった三日月宗近を立葵ではなく堀川に預けた。
「然るべき場所に、相手に、これを」
「えっ」
狼狽えるも受け取った彼の視線は何度もデュースと三日月の間を行ったり来たりしている。その心中を読み取ることはできないが、気遣われている事だけは確かだった。困ったように笑ってデュースは首を横に振る。そこに未練の一欠けも見られないことに堀川は瞠目し、そして無言で頷いた。ほんの僅かな何気ないやり取り。しかし言葉にはならないながらも重要な何かが含まれていた。
三日月を手渡してすぐ、デュースはパッと片手を上げる。
「……このままだと帰れなくなりそうなのでさっさと退散します。じゃ、達者で」
そして、欠片も躊躇なくそうのたまった。おそらくは二度と会えないことは確実な相手に向かって至極あっさりと。名残惜しさなど微塵も感じている様子は無い。
「えっ、はあ!? 突然過ぎない!?」
「道が確立されてる今を逃したら本当にやべぇんですよ」
「あっちょっ! 待って待って!? これマジで後どうすりゃいいんだ!?」
共に死線を切り抜けた間柄だというのに何と薄情な。そんなことを思いながら立葵は眉を情けなく下げる。
もはやデュースが審神者ではなく一般人だ、と言っていたことなど頭から抜け落ちているようだった。まあ、あれだけ派手に立ち回ったのだ。デュース自身も半ばそれは意識の外に追いやっていたため問題ないが。
「政府の方と連絡がついてるんなら大丈夫だろう。陰陽課、怪奇対策班? あー多分なんか色々対応するところがあるから。そこから人が此処に派遣されるはずだ。それを待ってればいい」
「俺らだけで?」
「むしろなんで俺らが最後まで一緒に居ると思ってるんだ」
別ルートでこの場に辿り着いたのだから、帰りもまた別だ。そう言い聞かせるように告げてデュースは踵を返す。
「ううう何か納得いかねーけど、あざっした。いや、ありがとうございました……」
「……無事で済んで良かったな、こんな事滅多に無いだろうけど、ちゃんと有事の際は対応できるように勉強しておいて損はないぞ」
「……帰ったらちゃんと勉強シマス」
渋々と言った様子の立葵の両隣で刀剣二振りも力強く頷いている。どうやら彼が逃げ出そうとしても刀剣たちは逃すつもりはないらしい。そいつは重畳、小さく笑ってデュースは今度こそ彼らに別れを告げたのだった。
少し離れた位置でその様子を見守っていたクルーウェルの元へ速足で駆け寄る。
「さて、僕たちも帰りましょうか」
「……あれは放置で良いのか?」
「ええ。これ以上の干渉は不要ですので」
「そうか」
淡々とした無駄のない会話だった。
そもそも帰り着く場所が違うのだから。その言葉を喉の奥に呑み込んでデュースは帰郷を促す。
「先生が道を教えてください。ちょっと僕、今は余力が無いので」
「……良いだろう」
「あ、でも何かあったら動けるのでその点は安心して下さい」
その言葉に一つ頷き、クルーウェルは門の外へと足を踏み出す。白衣が翻る。そうして二人は帰路につくのだった。
本丸の正門から道が細々と続いている。その道なりに歩を進めながらデュースは民族衣装から制服へと着替えていた。クルーウェルも同様にジャケットを脱ぎ持ち主へと返却。危なくないのか、と思わなくも無いだろうが怪奇の一件を解決した以上もう必要ないのだ。
「帰り道はそこまで神経質にならないでも大丈夫でしょう」というのはデュースの言である。
程なくしてデュースとクルーウェルは学園に戻ってきていた。何の前触れもなく視界が切り替わったと思ったら、メインストリートから購買部に続く道に居たのである。
行きはスリリングの連続だったというのに、帰りはあっけなく元の世界に戻ってこれた。行きはよいよい帰りは恐い、とは真逆な現状にデュースはスンと表情を無にする。帰りの道中で何事も無かったのはこれ以上ない幸運ではあるのだが、後に何かがありそうで怖い。
何気なくチラリと視線を左腕に落とし、秒針が動いているのを確認する。そしてメインストリートの側路に設置してある時計を見てデュースは目を瞬かせた。
「先生、時計見てください」
「何だ?」
「時計の針がほとんど動いてないです」
「……なんだと」
なんと、一時間と経っていなかったのだ。体感にして半日近くは怪奇と成り果てた本丸で過ごしていたのだが。
そんなことを考えながらデュースはようやく緊張から解き放たれた体を伸ばす。ぐぐぐ、と両手を天に突き伸ばして大きく深呼吸をした。
「あ、先生、研究室に行く前に寄りたいところがあるんですけど」
「何?」
「購買部です。Mr.にお礼を言いたくて。この服が無かったらちょっと危なかったんですよね。服の模様……守りの力が消えかかるくらい負荷が掛かったってことなんで」
「……そうか」
寄り道の行先と理由を告げられたクルーウェルは頭を抱えるほかなかった。民族衣装の文様が殆ど消え失せているのがどういう意味なのか、それを知りゾッとする。下手をすれば命を落としかねなかったのではないだろうか。チラリと視線をデュースの耳元に向け、クルーウェルは柳眉を潜めた。ピアスの緑石が砕けている。
(……何か、新しい物を今回の礼として贈るか)
完全にデュースに巻き込まれただけだという事など露知らず、クルーウェルはそう考えた。隣を歩く生徒に似合いそうなものを脳裏に幾つかピックアップし始める。自身の身ならず他者を彩るのも彼は嫌いではなかったのだ。
道なりに緩いカーブを曲がった頃、ふとクルーウェルは出会った三名のうち一人を思い出す。何となしにそれを話題に上らせたのは沈黙が妙に重く感じられたせいだ。
「そういえば、あのアイゼンという仔犬が飛び込んできた時は驚いたな」
「まああんな状態でしたし突然でしたからね」
「ん? ああ、それもあるが」
次いで発せられた言葉にデュースは足を止める。
「トラッポラが来たかと思ったんだ。声がひどく似ていたからな」
この時クルーウェルは軽い気持ちで自身の思ったことを率直に口にしたのだ。エースと友好を深めているデュースであるならば、目を見開いて納得しその顔に笑みを浮かべるのではないか、と。
本当に全くもって深い意味は無い。むしろどこか気落ちした様子を見せるデュースの気分を少しでも浮上させてやらねば、とすら考えていた。
だから、この世の終わりでも迎えるかのような顔をされるなど、露にも思わなかったのだ。
「──、は?」
あらん限りに目を見開いたデュースは、その一瞬、クルーウェルの言葉の意味を理解できなかった。僅かに絞り出された声が震えている。
誰が、誰の声と似ているというのだ。エース、と、そして──
(……愛染?)
その事実はデュースの胸の柔い所を容赦なく抉った。
ぞわりと全身の産毛が逆立つ。喉を圧迫されるかのような息苦しさを覚える。鼻の奥がツンとする。喉奥が熱い。目の奥が熱い。視界が滲む。ぼたり、ぼたりと頬を伝って涙が滑り落ちる。ひくりと喉がわななく。
なぜだろうか、自分の事だというのに制御が全くできないでいる。
類似点を上げられた瞬間、デュースの中で成立してしまった図式がある。それによって責め立てられるような感覚に襲われていた。両手で顔を覆いそのまま力なくしゃがみ込む。
デュースは過去に大切にしていた誰かと、他者を重ね見ていたのだ。
嗚呼、嗚呼それは、あまりにも──
(最悪だっ……!)
自然と呼吸が浅くなる。胸が締め付けられる。抉られるかのように痛い。
無意識のうちに頭を掻きむしっていた。そのままグッと両手で鷲掴むように頭を抱える。狼狽えたクルーウェルが声をかけているが、デュースの耳は届いていない。
デュースは襲いくる感情が一体何なのか解らなかった。悲しみなのか、情けなさなのか、自分への怒りなのか。
ただ一つ言えることは、今この瞬間、消えて無くなってしまいたかった。
(最悪だ、最悪だ最悪だ、馬鹿か俺は! ……こんなの、愛染にもエースにも、合わせる顔が、ない)
──何が、弟が居たらこんな感じだろうか、だ。近所のやんちゃ小僧、だ。
どれも自分が過去に愛染に対して思ったこと、そのままではないか。
この一ヶ月弱の日々を思い出し、デュースは否応なしに自覚した。思い到る点が幾つも脳裏に浮かんでくる。無意識のうちに別人を重ね見ていたのだ。
折れた刀剣を誰かに重ね見ること。それはデュースが前々世で最も厭った行為だ。こと愛染国俊に関してはその傾向が凄まじい。
どれだけ大切に思っていようと、忘れずにいようと考えようと、記憶の劣化は避けて通れない。前々世を思い出した折に、色彩は覚えていた。しかし細やかな部分は靄がかかったように思い出せなかった。今回の本丸跡地での邂逅が無ければきっと一生思い出さずにいただろう。
入学式の翌日、デュースがあれだけ動揺し平静を失った事や常の立ち振る舞いが出来なかった事。その全てに説明がつく。ついてしまうのだ。
あの跳ねたテラコッタ色の髪に、やんちゃさに、声に、既視感を覚えなかったか。そう問われれば答えは否。
──鏡舎に駆け込んできたエースの声を聞き、どこかで聞いたような声だと思った。しかしそれが果たして記憶の中の誰を彷彿させられたのか、思い到らなかった。しかし今なら分かる。
その時点で既に感覚として思い起こされていたのだろう。感受性が強いとはいえ対策をしていたはずのデュースが、精神状態が平常とは程遠い状態に陥った原因が、まさしくそれだった。
──シャンデリアが破壊された際、瞬時に脳裏を駆け巡った痛みを伴う記憶も。感じた息が詰まるかのような焦燥も。胸が抉られるような、心を引き裂かれるような痛みも。
記憶によって引き起こされた無自覚の混乱が故。
ああ、思い返せば入寮後初めて顔を合わせた時に懐に物足りなさを覚えはしなかったか。漆塗りの刀を所持することになってからは刀剣を求めることなど殆どなかったというのに。
デュースは更に体を縮こまらせた。
第一印象というのは馬鹿にできない。少し接した後、ああなんだ良い人じゃないか、そう思い仲を深めることがある。しかし最終的には距離を置くことになるパターンが中々に多い。ああやっぱり初対面の時の感覚は間違っていなかったんだな、と嘆息することなど幾らでもあった。
多くの過去生の記憶を持つデュースであれば経験も相まって尚の事。殆どその第六感的判断とも言えるそれを外したことがない。
エースに対する第一印象、それは「多分知人止まりになるだろう」「仲良くなれなさそう」といった割とネガティブなもの。監督生という存在が間に入ったとはいえ、それで万事上手くいくわけではなかった。
それでもデュースが、エースと常に行動を共にすることを許容したのは──
(そんなことってあるかよ)
記憶の中の存在を無意識に重ね見ていたことが一因。ギリッと噛み締めた奥歯が嫌な音を立てた。
人の記憶から一番先に消えていくのは声なのだという。前々世では刀剣男士たちは分霊という存在であったため、審神者の数とほぼ同じく彼らは存在していた。演練や万屋などですれ違う機会はかなり多い。だから声を、姿を、忘れることなど無かった。
けれど今は違う。過去生における人物に対する細やかな部分が曖昧である現状が確実に裏目に出ていた。
「……スペード、息を整えられるか?」
トン、とデュースの背を優しくたたく手。状況を何一つとして理解できていないながらも、クルーウェルは宥めるため震ええる背に手を添えたのだ。
ひぐ、と喉を鳴らす様子からは異界で見せた立ち回りなど嘘のようだ。あまりにも頼りない様子にクルーウェルは対処に困苦していた。
「一先ずこのまま購買部に行くぞ」
とりあえずは目的地でもある購買部に行き、そこで腰を落ち着けて話をさせよう。そう考えをまとめたクルーウェルはすぐさまデュースを立ち上がらせる。
なお、サムを道連れにしよう、という考えも少なからずあった。ズルい男である。
しかし傍から見てこの状況をどう捉えられるのか。答えは単純明快。
「クル先また誰か泣かせてる」
部活終わりにたまたま通りがかった生徒が呟いた。しかしこればかりは誤解である。渋面のままデュースを引きずり、クルーウェルは購買部へと歩みを向けた。
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2020.12.23.支部にも投稿しました
2022.1.15.別館サイトに掲載