転生したら、名探偵コナンの世界の住人になっていました。主要人物は遠くから眺めているだけで十分なんです!
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  • 心機一転、頑張りましょ…う?

    あれから私は大事を取って、1週間もお休みを頂いてしまった。それに今日はお昼からの出勤になっており、今まで心配をかけてしまった分と、休んでしまった分、きっちり働かせてもらおうとやる気スイッチもバッチリだ。

    首筋に出来た傷もすっかりいえて、腰あたりまであったモッサリした髪も顎のラインまでバッサリ切り落とし、内巻きのボブにしてもらった。ちょっと重めなので毛先の方がふんわりいい感じに丸みを作ってくれている。

    前髪も右に流せば少しはイメチェン出来ただろう。何だか、前世の私よりも容姿が整っている。

    「…よし、頑張ろう。行ってきます」

    お詫びの菓子折を持って、私はポアロへと向かった。ドアを開ければ、カランカランとカウベルが心地よい音色を鳴らした。

    「いらしゃ…千束ちゃん!」

    私を見つけた梓さんが駆け寄り、私の頬や首に手のひらをぺたぺたと触れた。

    「えと、おはようございます。それから、ご心配おかけして、すみませんでした!」

    「いいのよ!あぁ、本当に…人質に取られて怪我をしたと聞いた時は生きた心地がしなかったわ。安室さんからは命に別状は無く、少しかすり傷を負ったくらいだ、とは聞いたけど…。それにその髪…辛い思いをしたわね…」

    と、心配して抱きしめてくれて頭を撫でてくれたのは嬉しかった。…嬉しかったけれど!お客さんがめっちゃ見て来る。しかも何かめっちゃ和んでいるような?ほわほわした空気が漂っていた。

    「あ、梓さん…。本当にご心配おかけしました。あのー…、とりあえず、今は…」

    「え?…あ、…あらやだ、私ったらつい…」

    ハッと我に返った梓さんは、顔を赤らめ恥ずかしげに笑っていた。私から離れた後で、まるで妹を見るような視線に、むず痒くなって目を逸らしてしまった。

    「とりあえず、千束さんの無事な姿も確認出来ましたし、着替えて来てはどうですか?」

    「安室さん、…その節はお世話になりました」

    「いえ、いんですよ」

    「ありがとうございました。では、着替えて来ますね」

    さも当たり前、と言うかのように笑った安室さん。私は一礼をして、ロッカールームに急いだ。今はお昼時で、丁度良く混み合う時間なのだ。

    菓子折と荷物をロッカーにしまい、クリーニングに出しておいたエプロンをかけて、腰でキュッとリボン結びをすれば、自然と気合いが入る。

    それからはもう、怒涛の嵐だった。
    どうやら、安室さんが新たに加えたメニューが評判が良いようで、次から次えと絶える事が無い。

    「いらっしゃいませ!こちらのお席へどうぞ…」

    「メニューが決まりましたら、お呼びください…」

    「はい、畏まりました。ご注文、以上でよろしいですね?…」

    ウェイターをやりなが、手が開けば空かさず皿洗いに入って、注文取っての繰り返しで気がつけば午後の2時をすっかり回っていた。こんなに忙しいのはいつ以来だろう。

    恐るべし、安室さんメニュー…。
    2時間で内容の濃い仕事をした気分になった。

    「お疲れ様でした」

    コトン、と目の前に置かれたコーヒーカップ。
    安室さんだって忙しかったのに、さり気なくこんな気遣いがさらりと出来るなんて、凄いと思う。

    「ありがとうございます。安室さんも、お疲れ様でした」

    「…髪、切られたんですね。お似合いですよ」

    (……!)

    「…、あ、ありがとう、ございます」

    不意打ちを食らったかのように、私の心臓がトクリと跳ねた。そうして、梓さんと安室さんがどうしてあんなに仲が良いのかが分かった気がした。

    この2人共…絶対に天然タラシであると!!

    種類(?)は違う物の、2人からは何となく似たような空気を感じるのだった。

    (あ、でも安室さんの煎れてくれたコーヒー…うまし…)



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