02
もどる?
「戻るとは いせかいにか」
「うん、異世界。今日は試しに来てみただけだったんだ。まだあっちの世界に籍をおいてるからね。でも運が良ければまた来れるよ」
籍?
「よく分からん。ちゃんとせつめいしろ」
「私がこちらの世界に籍をおくことができれば、また会えるってことさ」
言いながら“狂桜”を差し出そうとする香耶に、俺は“狂桜”の鞘を投げてやった。
「ちかげ君?」
「もっていけ。そんなつかいものにならぬ刀などいらん」
餞別にくれてやる、という言葉はのどの奥へと飲みこんだ。
しかし香耶はくすくすと笑って俺の前にしゃがんで目線を合わせた。
「そっか。ありがとう」
するりと頬を撫でられる。そして触れる体温を噛み締めるように瞳を伏せた。その穏やかで優しげな笑顔に、俺は無性に安堵した。
俺もまた香耶の頬へと手を伸ばすが……。
その手がぬくもりに触れることはなかった。
月明かりを反射していた銀髪も、抜けるような縹色の瞳も、闇にとけるように目の前から消え失せた。
屋根の端で光っていた真ん丸の黄金だけが、夢じゃなかったのだと俺に教えてくれていた。
俺はお前のことを決して忘れまい。
また会えると言って笑ったお前に、また会いたいと。
俺は思ってしまったからな。