弐-01
藤堂平助side
それは酒の席での話だった。
俺と、左之さん、新八っつぁん、そして酒は久しぶりという香耶の四人で、夜の月見酒と洒落込んでいた。
「なあ、香耶はいつも総司と一君とで稽古とか追いかけっことかしてるじゃん。ぶっちゃけ香耶はあの三人の中で何番目に強いわけ?」
「平助君。私は別に好きで追いかけられてるわけじゃないんだけど」
「そういや総司は昔、香耶には一度も勝てなかったっつってたな。斎藤もおまえのこと師匠、なんて呼んでたしよ」
「あいつらから香耶の話を聞くたびに、どんな女かと想像したもんだぜ」
「君たちの想像内容の詳細は聞かないでおくよ。それで……私が何番目に強いか、だっけ。彼らの名誉を守るために黙秘させていただこう」
香耶の強気な態度に新八っつぁんも左之さんも苦笑をこぼす。
「おまえそれ……自分が一番だって宣言してるようなもんだぞ」
「そりゃすげえ自信だなぁ」
「じゃあさ、俺と試合しよーぜ。俺に買ったら一本おごってやるよ!」
「そりゃあいいね。なら平助君が私に勝ったあかつきには、『新選組つわもの番付』の一番を君の名前にしてあげるよ。なぜなら私に勝ったことのある奴はまだいないからね。新八君と左之助君はどうする? 挑戦者大歓迎だよ」
「『新選組つわもの番付』って……もうあいつらの名誉とかのくだりはなんだったんだよ」
「おっしゃ、俺はやってやるぜ!」
「げ、新八っつぁん、やる気まんまん」
「しかたねえな」
こうして俺たちは、翌日の朝稽古が終わったあとに試合をする約束をして、陽気に解散したのだった。
これが、まさかあんなことになるなんて……。
翌朝、壬生寺境内。
寺内の階(きざはし)に腰掛けてくつろぐ左之さんとは逆に、新八っつぁんは素振りをして気合充分、といった様子だった。
「おせえな、香耶のやつ」
「まあまあ落ちつけよ平助。……ほら、噂をすれば、来たみてえだぞ」
左之さんの言葉で寺の入り口に目を向けると、木刀を片手に持った香耶が、山門をまたいでじゃりじゃりと砂利を踏む音とともに近づいてくる。
あれ、でもなんか……?
「様子が変だな……」
「左之さんもそう思う? なんかあいつ、ふらふらしてるっつーか……」
話している間に、香耶は足をもつれさせて、べしょっと砂利の上に倒れ伏した。
「香耶!?」
「おいおい大丈夫か!?」
「どーしたってんだ?」
俺たちは、倒れたまま動かなくなった香耶にあわてて駆け寄った。
「……うぅ、おおきなこえを、ださないで、くれるかな。あたまいたい…きもちわるい」
「酒臭え。こりゃ……二日酔いだ」
「「は!?」」
香耶のやつ……酒に強くねえんだな。土方さん並みじゃん。
左之さんは重くため息をついて香耶の身体を起こしてやった。
「はぁ、今日はだめだな。香耶、試合はやめにして休んどけ。な?」
「だめだよ。ぶしに、にごんは、ない」
「よく言った、香耶!! 男にゃあやらなきゃなんねえときがある!!」
「新八っつぁん……香耶、女」
それにしても香耶は、なんでこんなんなっても出てきたんだ?
「で、ほんとにやるのか?」
「やるよ」
新八っつぁんの言葉に、香耶は木刀を支えにして立ち上がった。
「お、おい、無理しねえほうがいいって! やる前からもう満身創痍じゃん!!」
「へいすけ、くん。きみのこえ、あたまにひびく。しゃべるな」
「ひでえよ!!」
ふらっふらで最高に不機嫌な表情の香耶は、下段に構えて新八っつぁんに狙いを定めた。
「左之さん……」
「ああ……怪我する前にやめさせるほうがいいな」
困って左之さんに目線を送ると、左之さんも焦りの表情でうなずいた。
第一、香耶に怪我なんかさせたら、総司がなんて言うか……それこそ手とか刀とか出てきちまうよ。
「しんぱちくん、いざじんじょうに、しょうぶ」
「お、おう!」
だけど香耶の迫力に圧されて新八っつぁんも木刀を構える。
互いに地を蹴り、二人の影が交差した!