02
カンッ
木刀を打ち合わせる音が高く響く。
双方下段から合中段になり、香耶は突きを放った。新八っつぁんは敵刀に添えるようにしのいで、咽もと、みぞおちを狙い二度突く。
引きの速い香耶は、同じようにしのいで新八っつぁんの裏に入り手首を斬り落としにかかるも、間合いを取られ横外しにされたところですばやく懐に入り、その小さな身体を回転させて新八っつぁんの顎にかかとを食らわせた。
「いっ!?」
のけぞって避けるも足を払われて、新八っつぁんは後ろに倒れた。
そしてその身体に飛び乗られて木刀を突きつけられて。
「くそっ、参った!」
新八っつぁんが降参した。
「速ぇ……」
「すっげー、」
見ていた俺も左之さんも圧倒された。
新八っつぁんがちょっと油断してたってのもあるだろうけど、香耶の圧勝なのは間違いなかった。
香耶はあんなひでぇ状態だったのに試合が始まったとたん別人みたいになっちまった。まるで歴戦の剣豪みたいで、かっこよかったんだ。
けど……。
「ふ、ふふふふ」
んん?
新八っつぁんの腹の上に跨って、額に木刀を突きつけたままで、香耶は妖しく笑い始める。
「ど、どうした、香耶?」
「――あなたたち、何やってるんですか!」
「あ、山崎君?」
そのとき、山崎君が若干あせった表情で壬生寺までやってきた。
今日は巡察当番じゃねえし、山崎君に怒られるようなことなんか何もしてないはずなのに。
「何って、腕試しをちょっとな」
「月神君は今……泥酔状態ですよ!」
「「「は?」」」
「だーっははははははははははは、あっはっはっはっはっはっっははははげほっ!!」
壊れた!!
香耶は新八っつぁんの腹の上で大爆笑をはじめた。
こいつ二日酔いじゃなくてまじで酔ってんのか!?
「昨夜、皆さんと別れたあとも屯所の屋根上で九つ半(午前一時)まで飲み続けていたんですよ」
山崎君の説明に唖然とする。
こ、九つ半!?
それが本当ならこいつザルじゃねーか!
「俺が見つけて部屋に戻しましたが、そのときに朝起こしてくれと頼まれまして。それで今朝、起こしに行ったら気分が悪いからと迎え酒を……」
「それでこれか……」
「うげぇ、まじか」
俺たちは、新八っつぁんの腹をばしばしと叩いて爆笑する香耶を見て頬をひきつらせた。
こんの大トラが! 悪酔いしたうえ笑い上戸かよ!
「左之、平助! のんきに見てねえで助けてくれよ!」
「ははごほっげほっあはは、ごほっ、はぅ」
そして香耶は、ひとしきり笑った後、新八っつぁんの腹の上にぱたりと落ちたのだった。
再び翌日。朝餉の席で。
昨日のことなんか何もなかったような様子で膳をつつく香耶に、総司が話しかける。
「香耶さん、昨日一日中寝てたみたいだけど、どうしたの?」
「きのう?」
香耶と、そして昨日の事情を知る俺たちの箸が止まった。
(左之さん、新八っつぁん…この流れはまずくねえ?)
(だな。結局俺らが香耶の身を危険にさらしたことにゃ違いねえし)
(じゃ、じゃあ、昨日のことがばれたら総司を怒らせちまうかもしんねえってことか)
小声で言葉を交わす俺たちは戦々恐々としていたが……、香耶の次のセリフには耳を疑った。
「それが、おとといの夜から今朝起きるまでの記憶が無いんだよね。晩酌のせいかな」
は? ……なんだって!?
「ちょ、ちょっと待て」
俺は思わず頭を抱える。
記憶がねえって、それじゃあおとといの夜、みんなと話をしたことも、昨日の朝壬生寺で試合したことも。
「「「おぼえてねえのかよ!?」」」
「え?」
「……どういうこと? そこの三馬鹿」
あ、しまった。
挙句の果ては山崎君の報告でことを知った土方さんに説教を食らうは、総司に抜き身を持って追いかけられるは、この日は一日散々だった。
そして香耶は、幹部一同から禁酒令を言い渡されたのだった。