漆
沖田総司side
剣呑な僕たちの空気に、周囲には緊張が走る。
「……総司君」
「いくら香耶さんの頼みでもこれは譲れないなあ」
ほぉう。
そう声を漏らしてきらりと瞳を光らせる香耶さん。
僕と彼女の間には三本の銚子。
膳をはさんで睨み合う。
そんな様子を食事後の幹部達が、固唾を呑んで見守っていた。
「今日から君が飲んでいい量は、一日一合。それ以上は一滴も飲ませない!」
「横暴だよ。僕から少ない楽しみを奪うつもりなの?」
「なにも飲酒を禁止しているわけではないのに」
「一合程度じゃ少しも酔えないでしょ。代わりに香耶さんが僕を気持ちよくしてくれるって言うなら考えてあげてもいいけど?」
「それは下ネタ的な意味にしか聞こえない」
「もちろん下ネタ的な意味で言ったんだよ」
「肯定すんな!! 千鶴ちゃんもいるんだから!」
「千鶴ちゃんもさ、男所帯にいるからには下世話な話に少しくらい耐性付けといたほうがいいんじゃない?」
「えっ!? あのっその……」
急に話を振られた千鶴ちゃんは、顔を真っ赤に染めておろおろする。
そんな千鶴ちゃんを、香耶さんは、僕の視線から守るように背に庇った。
「総司君、話が逸れてる。とにかく、今日はもう一本しか飲んじゃだめ」
「ええー」
僕達はしばらく睨み合う。
……香耶さんがこんなことを言う理由は、僕だって承知してる。
でも、僕も彼女も素直じゃなくて。
今、僕が銚子に手を出そうものなら、香耶さんは刀を抜いて斬りかかってきそうだ。
「おい、香耶のやつ今にも総司を斬りかねねえよ!」
「さ、斎藤さんおねがいします、香耶さんを止められるのは斎藤さんだけですっ」
「……いや、その必要はない。香耶の殺気は総司ではなく銚子に向いている」
「敵は銚子ってわけか」
僕的にはみんなのようにのんびりしてる場合じゃない。
だってここで銚子を斬られたら、もう晩酌どころじゃなくなるし。
「いくら君が可愛い僕の恋人でも、聞けるお願いと聞けないお願いがあるんだよね」
「そうかいそうかい。なら身体を張って阻止させてもらうよ」
「おい香耶。屯所のものを壊すなよ」
「ちっ……わかってるよ歳三君」
いま香耶さんから舌打ちが聞こえたような気がしたんだけど。
「……で? 香耶さんは僕に何してくれるの?」
言葉にしても伝わらないのなら。
香耶さんは薄く笑って僕のそばに擦り寄ってくる。
え………?
「総司くん……」
僕の胡坐の上に、猫みたいに乗りあがって。
僕の顔を引き寄せて、さらりと髪を撫ではらわれた。
「……香耶さん…?」
うわっなにこれ。
みんなの前で香耶さんがこういうことするのって、すごく珍しい……というか、普段なら皆無に等しいのに。
どきどきして成り行きに身を任せていると、香耶さんは僕の胸元を指先でなぞり、そのまま首に腕をからめて耳元に唇を寄せてきた。
「ねえ、総司君。部屋、行こ?」
はぁ、と彼女の温かい呼気が耳殻を刺激した。
艶やかな表情、脳髄に直接ささやかれて。
たまらない。
僕の思考はあっという間に煮えあがった。
「うん、行く♪」
すっかり態度を豹変させて杯を置いた僕の様子を、周囲は呆れたように見ていたけれど。僕はそんなの一切無視して、上機嫌に立ち上がる。
僕の胸に顔をうずめたままの香耶さんが密かに笑っていたことだって。
悪い気はしなかったから。
お題/MJMJ