沖田総司side



熱を出した。

幼い頃は、わざわざ僕を看病しようなんて奴が周りにいるはずも無く。
忙しい合間をぬって来てくれる近藤さんやつねさん、べつに来て欲しくもない土方さんが時々やって来る以外で、風邪引きの僕を訪ねようなんてひとはいなかった。
目を覚まして、だるい身体を起こしても、薄暗い部屋にいるのは自分だけで。
こんなことで感傷に浸るなんて、僕らしくない。
熱のせいで気が弱くなってるのかな。

冷たい何かが頬に当たる感覚で、僕は、はっと覚醒した。

「………香耶さん」

「お目覚めかな?」

目覚めてすぐ視界に入った香耶さんは、おはよう、と言いながら綺麗に笑った。

ここは……新選組の屯所だ。
昔の夢を見ていたのか……。
僕の頬や額に触れて体温を診る彼女の手。そのひやりと冷たい指先が、僕の体温をさらに上げる。

「起きられる? 水、飲みな」

確かに、咽がからからだった。僕はこくりとうなずいた。
受け取った湯飲みの中身をゆっくり嚥下すると、甘い味がじわりと身体に染み渡る。
……甘い?

「……水じゃないの?」

「え? 水だよ」

香耶さんは僕の濡れた唇にそっと指で触れて、それを自分の口元に持っていって、ぺろりと味を確かめる。
彼女は水だと確信して首を捻っていたけれど。

ああ、彼女が触れた唇が熱い。
それに、とっても甘い。

「……そういえば女の子は砂糖菓子でできてるんだっけ」

「ちょっと総司君。君、大丈夫?」

やっぱ寝てなさい! と布団に押し戻された。
熱のせいで頭おかしくなったと思われてるのかな。
……うん。自分でも自分がおかしいと思うよ。

香耶さんは冷たい水で手ぬぐいを濡らして、僕の額に置いてくれた。
それから、思い出したように盆から何かを取り出して。

「これ舐めときな」

飴をひとつ、僕の口に放り込んだ。

「生姜の飴だよ。ちょびっと塩分も入ってるから、今の君にぴったりだと思って」

もごもごと口の中で飴を転がしながら、香耶さんの空色の瞳を見つめる。
香耶さんは、なぜかそこはかとなく機嫌がよくて。

「ねえ、何でそんなに嬉しそうなのさ」

言外に『人の不幸を面白がってない?』と含ませてみると。
香耶さんは困ったように微笑んだ。


「君が危険な任務にも行かず、ずっと私の傍にいてくれて、私だけを見てくれる……。こんな一日もたまにはいいかと思って。……ごめん、不謹慎だよね」

僕は目を見開いた。
だって香耶さんが、こんなに素直に自分の気持ちを言葉にするなんて、めったに無いことだから。

「でもやっぱり君は健康なほうが良いや。早くよくなってね……」

優しい言葉をつむぐ、やわらかい唇が、僕の鼻の頭にそっと触れて離れる。
僕は思わず彼女の首に手を回して、強引に引き寄せ、唇を重ねた。

「ん……っ」

だって、離れるのがもったいなくて。
唇を食むようについばんで。

甘いね。これは飴のせいじゃなくて。
心が感じてる、甘味。

長い時間そうしていたと思う。
荒海が凪ぐように、気持ちが落ち着いていた。
もう、薄暗い部屋にひとりじゃない。
僕を心配して、看病してくれる、尊いひとがいる。

「ねえ、そばにいて。ずっと」

「うん。安心しておやすみ……」

目じりに滲んだ熱涙を、彼女の冷たい手が包み込んで隠してくれた。



 


お題/Aコース

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