拾
雪村千鶴side
「ちっづるちゃーん、たっだいまー」
「あ、おかえりなさい。香耶さん」
香耶さんが、千鳥足で部屋に帰ってきた。
「また“晩酌”ですか?」
「うん、ちょっと屋根でねー。今日はいい月でてたよ」
言いながら、ばさばさと服を脱ぎ捨てる。
「千鶴ちゃん、お風呂上り? 私も行ってこよっかな」
「そんなふらふらでお風呂は危険ですよ! 明日の朝、湯を用意してあげますから今日は大人しく寝てください」
「私は酔ってないーぶははは!」
なにが面白かったのか分からないけど、おなかを抱えて笑い出す香耶さん。
笑い上戸が出てますよ。
「き、聞いてよ千鶴ちゃん、総司君たらね…うっくくく」
はいはい、沖田さんと飲んでたんですね。
寝巻きに着替えた香耶さんは、自分の布団を敷きながらも笑いをこらえて肩を震わせていた。
「飲ませすぎてリミッター外しちゃったみたいなんだあははは」
はい?
意味が分からなかったので聞き返そうと思った、そのとき。
すぱん!!
勢いをつけて部屋のふすまが開いた。
「あ、え? お、沖田さん?」
そこに立っていたのは、たった今話しに上がった沖田さんで。
「香耶しゃんは…どこでしゅか」
「……は?」
一瞬自分の耳を疑った。
酒精の香りが鼻に付く。
目の据わった沖田さんは、香耶さんの姿を見つけると、おぼつかない足取りで歩み寄り、彼女の身体を抱きしめた。
「香耶しゃん…さびしかったでしゅ」
「あははははは」
「うわぁ…」
なんだか……見てはいけないものを見てしまったみたい。
「なんでいなくなったでしゅか。僕のこと嫌いになったでしゅか」
「ふっくっくっく」
「僕とおふろに入るでしゅ」
なんでいきなりそんな話に……。
沖田さんは、身体を曲げて笑う香耶さんを、慣れた様子で足をひっかけ布団に倒す。そして自分の服を緩めながら彼女の上にまたがって、首筋に唇を寄せた。
「はっ! ちょ、ちょっと待ってください!」
邪魔をするのは忍びないけど、ここは香耶さんと私の部屋。こんなところで、じょ、情事に及ばれたら……、私はどこへ行けばいいんですか!?
「うるしゃい…邪魔するんなら……斬る、でしゅ…よ」
ぱたり。
沖田さんはそのまま意識を失った。
そして香耶さんも、いつの間にか眠りについていた。
……とりあえず重なり合った二人の上に掛布をかけながら、私に言えることはひとつだけ。
「………明日、覚えてたらどうするんでしょう」
きっと面白いんだろうな。特に、沖田さんが。
その晩は、ほかに行くところもなかったので、私はいつものように、香耶さんの隣に布団を並べて、そこで休んだ。
男所帯が長いからか、我ながら神経図太くなってきたなぁと思う。
「うわあああ!!」
早朝、誰かの悲鳴で目を覚ました。
声のほうへ顔を向けると同時に、部屋のふすまが大音量で開け放たれる。
そして私は見た。
顔を耳まで真っ赤に染めて、部屋を飛び出す沖田さんの姿を。
後に残されたのは、唖然としたままの私と。
未だ眠りながら、沖田さんによって捲られた掛布を探す香耶さんだった。
その日は一日、自室の隅にうずくまる沖田さんが目撃されたとか。
「……くぁ〜、よく寝た。
……あれ? 私、昨日どうやって部屋に戻ってきたんだろ」
香耶さんに記憶が無かったのは、不幸中の幸いだったようです。