雪村千鶴side



「ちっづるちゃーん、たっだいまー」

「あ、おかえりなさい。香耶さん」

香耶さんが、千鳥足で部屋に帰ってきた。

「また“晩酌”ですか?」

「うん、ちょっと屋根でねー。今日はいい月でてたよ」

言いながら、ばさばさと服を脱ぎ捨てる。

「千鶴ちゃん、お風呂上り? 私も行ってこよっかな」

「そんなふらふらでお風呂は危険ですよ! 明日の朝、湯を用意してあげますから今日は大人しく寝てください」

「私は酔ってないーぶははは!」

なにが面白かったのか分からないけど、おなかを抱えて笑い出す香耶さん。
笑い上戸が出てますよ。

「き、聞いてよ千鶴ちゃん、総司君たらね…うっくくく」

はいはい、沖田さんと飲んでたんですね。
寝巻きに着替えた香耶さんは、自分の布団を敷きながらも笑いをこらえて肩を震わせていた。


「飲ませすぎてリミッター外しちゃったみたいなんだあははは」

はい?
意味が分からなかったので聞き返そうと思った、そのとき。

すぱん!!

勢いをつけて部屋のふすまが開いた。

「あ、え? お、沖田さん?」

そこに立っていたのは、たった今話しに上がった沖田さんで。


「香耶しゃんは…どこでしゅか」

「……は?」

一瞬自分の耳を疑った。
酒精の香りが鼻に付く。
目の据わった沖田さんは、香耶さんの姿を見つけると、おぼつかない足取りで歩み寄り、彼女の身体を抱きしめた。

「香耶しゃん…さびしかったでしゅ」

「あははははは」

「うわぁ…」

なんだか……見てはいけないものを見てしまったみたい。

「なんでいなくなったでしゅか。僕のこと嫌いになったでしゅか」

「ふっくっくっく」

「僕とおふろに入るでしゅ」

なんでいきなりそんな話に……。
沖田さんは、身体を曲げて笑う香耶さんを、慣れた様子で足をひっかけ布団に倒す。そして自分の服を緩めながら彼女の上にまたがって、首筋に唇を寄せた。

「はっ! ちょ、ちょっと待ってください!」

邪魔をするのは忍びないけど、ここは香耶さんと私の部屋。こんなところで、じょ、情事に及ばれたら……、私はどこへ行けばいいんですか!?

「うるしゃい…邪魔するんなら……斬る、でしゅ…よ」

ぱたり。
沖田さんはそのまま意識を失った。
そして香耶さんも、いつの間にか眠りについていた。
……とりあえず重なり合った二人の上に掛布をかけながら、私に言えることはひとつだけ。

「………明日、覚えてたらどうするんでしょう」

きっと面白いんだろうな。特に、沖田さんが。

その晩は、ほかに行くところもなかったので、私はいつものように、香耶さんの隣に布団を並べて、そこで休んだ。
男所帯が長いからか、我ながら神経図太くなってきたなぁと思う。




「うわあああ!!」

早朝、誰かの悲鳴で目を覚ました。
声のほうへ顔を向けると同時に、部屋のふすまが大音量で開け放たれる。
そして私は見た。

顔を耳まで真っ赤に染めて、部屋を飛び出す沖田さんの姿を。

後に残されたのは、唖然としたままの私と。
未だ眠りながら、沖田さんによって捲られた掛布を探す香耶さんだった。
その日は一日、自室の隅にうずくまる沖田さんが目撃されたとか。

「……くぁ〜、よく寝た。
……あれ? 私、昨日どうやって部屋に戻ってきたんだろ」

香耶さんに記憶が無かったのは、不幸中の幸いだったようです。

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