参-01

月神香耶side



全身ずぶ濡れのまま、私は屯所へと足を進めていた。
天気は快晴。浩々と輝く月の光を浴びて。
私の全身を濡らす人の血は、私の嗅覚を酷く刺激していた。


「は、ぁ……っぁ」

全身が総毛立つ。
血が飲みたくて。

足りないのか。
あれほど食い散らかしてきたのに。

「は、」

なんて醜悪な。私は吐き捨てるように自嘲した。

酷い衝動が波のように襲ってきて、私は建物の陰に身を沈めた。
のどの奥から湧き上がるような飢え。
己の身体を抱きしめて、震えながら波が通り過ぎるのを待つ。

ああ、早く。
早く早く早く……!


「まがいものか」

朦朧とした意識を切り裂く声。
私は、はっと顔を上げた。

「……ぁ、千景、くん」

「……香耶…!」

醜い私なんかとはかけ離れた、美しい生き物がそこに立っている。
彼の、驚いたように見開かれた瞳に、私は寂しさを覚えた。
その綺麗な緋色の瞳が、醜悪な血色の瞳を映し出して。

彼は今、穢れた私を見て何を思うだろうか。




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