03

沖田総司side



血を吐いて汚れたから、井戸で濯ごうと思って出てきたんだ。
でも咳が止まらなくて。

落ち着いたと思ったら、建物の影でうごめく、人ならざる者の気配。
誰だかわからなかったけど、刀を抜く音がしたから、僕は相手が動く前に斬りかかった。

暗闇に潜む者は。



「──っ!!?」

僕の大事な。
命より大事なひとで。


僕の刀は、そのひとの首に薄く傷をつけて止まった。

冷や汗が背中を流れる。
止められた自分を自分で褒めたいくらいだ。首をはね飛ばすつもりだったんだから。

彼女が瞳を開けると、普段は澄んだ空色のそれは、真っ赤に染まっていて。
そして暗闇に浮かび上がる、真っ白な髪。

僕は息を呑んだ。


血のにおいを嗅ぎ付けて来たのだろうか。
彼女はそういう生き物だから。

苦痛に歪む顔は、血の気が失せて蒼白だ。
けれど、僕はそれを醜いとは思えなかった。


だって、香耶さんだもん。


「──ねえ、死にたいの…?」

この状況。彼女は僕に斬られたかったとしか思えない。

「死にたくはない。でも、君に殺されるなら、私には特別なことだと思えた」

「……そんなの」


僕は、嫌だ。殺せるわけ無い。


「ぅ……あ゛ぁぁ!」

「香耶さんっ……ごほっごほ、っ!」

咽に爪を立てて本能と抗う香耶さん。
刀を捨てて僕から離れようとした。
僕もまた、刀から手を離し、彼女の手首を掴んでこちらを振り向かせる。


「離れ…っ」

「嫌だ!!」

僕を拒む唇に、噛み付くように唇を重ねた。
僕の口の中は血で汚れていて、香耶さんは苦しそうに、ぎゅっと眉根を寄せる。

「ん、んーっ」

血の味を唾液と一緒に、嫌がる彼女の咽の奥に流し込むと、その身体から徐々に力が抜けていった。


ねえ、僕のこと、嫌いになった?

ごめん。
ごめんね。

死病をうつしたくなくて、つきたくもない嘘をついて、君から離れたのに。
僕が吐いた血なんて飲ませて。


でも、君を殺して、ひとり残されるくらいなら。


「んぅ…」

「は、ぁ……好きだよ………なによりも君が、」

「私は、」

「今は何も言わないで。お願い…」

拒絶の言葉なんか聞きたくない。虫のいい僕。
僕に失望する香耶さんを見たくなくて、彼女を抱く腕に力をこめた。


「嫌なら僕を食い殺して」

無防備な首筋を彼女の前に晒す。
彼女が首を横に振るのをわかってて、そう言う僕は、卑怯だ。彼女は人間であり続けることを望んでるのに。

それでも、もう。
労咳も、死さえも分かちあって。
君のそばにいたいから。




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