03
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手術が終わった僕は、もとの部屋にもどされた。頭がずきずきと痛かった。
鋼鉄の扉が閉められると、被験体の子供たちが一斉に僕を見る。僕は意識が朦朧としていてそれどころじゃなかったけど。
床に倒れそうになった僕の身体を、抱きとめてくれる人がいた。きらきらと輝く銀色を、僕の左目がとらえる。
「貴女は……」
さっきの美しい女性だ。目が覚めたのか。
「大丈夫……じゃなさそうだね。意識をしっかり持って」
優しく笑う。このひとの左に残る空色の瞳に、吸い込まれそうになった。
『おい、香耶。そいつのこと助けるつもりか? さっさとこんなところ潰すんじゃないのか』
『だってこの子の右目を見てよ、薫君。私の目が移植されてる。私は羅刹のうえに時渡り能力を持ってるから体組織が普通じゃないんだ。
このまま放っておけば、この子は二度と戻ってこられなくなる』
『(そしたら香耶の右目は取り戻せなくなるか……)チッ……少しだけだからな』
彼女と黒髪の少年は外国語で会話していて、話の内容は理解できない。会話はすぐに終わって、彼女の視線は再び僕に向いた。
「君の名前は?」
「……696です」
「696? 数字じゃ味気ないな。君の名前はムクロにしよう」
「ムクロ……」
『(語呂合わせかよ……)』
「骸の右目に入ってるのは、元私の右目なんだ。今からその目の使い方を教えるから。ちゃんと戻って来るんだよ」
戻って来いとはどういうことだ。
意識がどこかに引っ張られそうになる。そういえば研究者どもは、この目のことをこう呼んでいた。
六道眼と。
「骸。きっとこれから辛い思いをいっぱいすると思う。でも、ここであったこと、見たことを決して忘れるな」
彼女が人差し指の先に炎をともした。その指で、僕の包帯に隠れた右目をなぞる。不思議と痛みも熱さも感じない。
ただ、胸の奥が熱くて。
「僕は……僕にこんなことをした大人が憎い……」
「ならば覚悟を示せ。君の覚悟に右目は応えてくれるよ」
僕を、こんな目に合わせたマフィアが、憎い。
だから。
「戻ってきなさい。必ず。私は君の名を呼んで待っている。君の名と、この炎を目印にして」
眩しくて、温かい。夕焼け色の炎が視界を覆いつくす。
「いいね。骸」
でも。その前にひとつだけ。
「まってください……あなたの名前は……」
「私は月神香耶」
闇夜に旅人を導く、一点の光。
それが、貴女だった。