04
月神香耶side
「……で? そいつはどこに行ったんだ?」
薫君が、私の膝に身体を預けて眠る骸君を見おろす。眠るというより仮死状態に近い。
「精神だけで時渡りを繰り返してるんだと思う。詳しくはわかんないけど」
「わかんないって……おまえの右目のせいなんだろ?」
「もうこれは骸君の右目だよ。私の身体から離れたら、私の制御を失って別のものになった。骸君の生命エネルギーに反応して馴染んでいけば、この子だけの兵器になる」
「こいつ専用の兵器ね……それじゃあこれから香耶の右目はどうするんだ」
「うーん。いくら羅刹とはいえ、無くなった目が生えてくることはないとわかったし。義眼でも入れるかな」
羅刹の驚異的な傷の治りの早さは、ここでも私を助けてくれた。眼球をえぐりとられても、激痛にさいなまれる時間は少しで済んだから。
ただ、自然治癒力が相当早いってだけだから、手足を切り落としても新しいのが生えてくることはない。私の右目も例にもれなかったようだ。
「羅刹の目になっちゃったのは気の毒だなぁ。せめて元の空色の瞳だったら、ここまで目立つオッドアイにはならなかっただろうに」
「藍色と赤色だからな……ってなんでそんなパイナップルの心配なんかしてるんだよ」
「パイナップルて……まぁまぁ薫君。こうして私たちが会話してる間にも、骸君は何年も何百年も世界をめぐってるかもしれないんだから。ある意味転生者同士ってことで、仲良くできるかもしれないよ?」
「俺にはそんなの必要ない」
口ではそう言いながらも、薫君はちゃんと待っててくれるんだ。
私も膝に乗ってる骸君の頭のてっぺんの房をわさわさといじってみる。わざと葉っぱみたいに見えるよう形を整えてあげた。おもしろい。
遊んでいると、薫君は私の横に腰掛けて、つまらなさそうな顔をした。
「それより俺にイタリア語を教えろ。満足に意思疎通もできないなんてもうたくさんだ」
「はいはい」
骸君の頭の上でイタリア語講座が始まった。
───なぜこんな目に遭わなければならない
───苦しい
───悲しい
───滅ぼしてやる
───マフィアなど無くなればいいのだ
骸
───僕には、僕に右目と名をくれたあのひとがいればいい
戻っておいで
───香耶
私は君を待ってるから
───貴女さえいれば