08

沖田総司side



最近、あの人の顔を見ると頭痛がする。


月神香耶。
新選組の局長だった近藤さんの立場に、どうしてだか成り代わっちゃってる女。
他の土方さんや山南さんたちもほだされちゃってて、それがすごく嫌だった。

「香耶さんは……沖田さんの、大切なひとでした」

聞きたくなかった。そんなこと。
頭が痛い。



数日後、あのひとはイタリアの友達を訪ねるんだと言って、軽く荷造りをしていた。
イタリアってあの、ヨーロッパにある、長靴の形した国だよね。遠いんじゃない。
それを聞いた土方さんもいい顔をしなかった。

「どのくらいかかるんだ」

「そんなには留守にしないよ。3〜4日くらいかな」

「そりゃあタイトなスケジュールになりそうだな。往復だけで終わりそうじゃねえか」

「ふふん。実は私には便利な瞬間移動能力があるんだよね。ほら」

言って彼女が手を宙にかざすと、黒色の炎がどこからともなく現れてまとわりつく。

「なんだこりゃ! ……香耶、おまえますますチートになってきたな」

「これは死ぬ気の炎と言ってね。君たちにもいずれ使えるようになってもらうよ」

「まじか……」

土方さんは炎を操る新選組の姿を想像して、若干顔を青くしていた



「携帯の電源は切るなよ」

「それは状況によるよ」

笑って見つめ合うふたり。
おもしろくない。胸の奥がチリチリする。



「帰ってこなくていいのに」

毒舌を吐き出した僕に、あのひとが振り向いた。
空色の瞳が僕を映す。まるで何もかも見透かすような瞳。



「君がいなくなれば、新選組は正しい姿に戻るでしょ」

「……そうかもしれないね。でも、私はここで生きると約束した」

このひととちゃんと会話するのは、これが初めてかもしれない。
なのに。

「誰と約束したか知らないけど、君なんか必要ない」

「君がそれを言うのか……私はここを必要としている。私の存在を知り、認めてくれる者がいる。だから私はここに在りつづける」

「僕は認めない! 出て行け!」

話を聞いていた土方さんや千鶴ちゃんが僕を取り押さえて宥めようとするけれど。
まるで水と油。僕とこのひとが溶け合ってひとつになることなんか、きっと絶対にない。
いつも穏やかに微笑んでいた秀麗な顔に、悲しげな影が差す。僕にはそれがとても気分のいいことのように思えた。



「なら君が望むとおりにしよう。
けれど、私がこの世界に籍を置いているかぎり、君のことは決して忘れない。忘れないでいるかぎり、私たちの道はつながっていられる」

「……――!?」



急に記憶が、疼いた。その言葉も、声も。僕は聞いたことがあった。

「香耶……!」

土方さんが手を伸ばしたけど、黒色の炎が渦巻いて遮った。まるであのひとを包むように。

「帰らねえつもりか!?」

「新選組は歳三君に預けるよ」

「新選組はおまえのものだ!」

つきんと頭が痛んだ。



「おまえが守ってきたんだろう、ずっとずっと、俺たちが生まれる前から……明治の、あの時代から」

「私が守ってきたのは、私の居場所であり、私の約束だった」

炎が視界を阻む。それは、僕に新たな記憶を引き起こす。



『心配しないで』

『向こうに籍があれば、いずれ帰れるから』



広がる闇は。

「……香耶、さん」

闇色の炎に重なって。

足りなかった記憶が、かちりとはまった。
ふわりと炎が消えた。あんなに視界を覆いつくすほどだった闇が霧散して、新選組本部の何の変哲も無い一室に戻った。

僕の大切な……命より大切なひとも共に消えた。




この日、勢いあまって家出してしまった香耶さんがたどり着いた先は、仲のいい友達のところではなく、人体実験を行っている非道なマフィアのところだった。
僕が彼女に謝ることが出来るのは、四年の歳月を経た後のことだ。

| pagelist |

ALICE+