04
月神香耶side
中庭の綺麗に刈りそろえられた生垣にそって忍び足で歩いていると、早くも行き先を遮るひとりの子ども……
「クフフ。ここを通るのを待っていましたよ。香耶」
「って、なんで骸君が!?」
彼は昨日イタリアからやってきたばかりの骸君。なんでここに。
「貴女を捕まえて屈服させれば願いを何でもかなえてくれるんでしょう?」
「なんか語弊があるけど……まぁ、そうだよ」
どこで嗅ぎ付けてきたのか骸君もこのリアル鬼ごっこに参加したいらしい。
骸君の手元には霧が集まって、徐々に彼が愛用している三叉槍へと姿を変えた。やる気まんまんか!
仕方がないので私も夜の炎を発動させて、“狂桜”を呼び寄せた。
そのとき、私の背後に忍び寄る別の気配が。
「捕まえたっ」
「ぅおぁ!」
飛び掛ってきた総司君から間一髪で逃げる。危なかった。
「ちっ……あれ、骸君も参加するの?」
「ええ。沖田君ばかりずるいじゃないですか」
ふたりが火花を散らせてる間にその場から離れ、外廊下を突っ切って校庭に飛び出す。
すると今度は恭弥がトンファー装備で追いかけてきた。その迫力たるや怖すぎる。夢に見そう。
「ねえ、香耶。あのパイナップル男は香耶のなんなの?」
「そっち!?」
「僕の並小に不審者を連れ込むなんていい度胸だね。咬み殺すよ」
で、ついでにゲームにも勝つ、って口角を上げる恭弥は、確かに並小の支配者だった。
校庭に飛び込んだときは恭弥ひとりだったのに、次に振り返ると、トンファー装備の恭弥と、三叉槍を構える骸君と、なぜか金属バットをかかえた総司君がそろっていた。三人とも私に何か恨みでもあったのだろうか。
壁際に追い詰められて囲まれたらおしまいだ。
私は校庭の端のプレハブの倉庫の屋根に飛び乗って、さらにフェンスに張り付いた。
「香耶さん、危ないよ!」
三人が見上げる中で、私は身軽にフェンスのてっぺんにたどり着いた。
「なにあのひと。実は雑技団かなんかじゃないの」
「僕らがフェンスによじ登って追いかけても、香耶なら飛び降りるくらいやりそうですね」
「んー。どうしようかな」
三人は誰からともなく顔を見合わせ、各々武器を振りかぶった。おいおい息ぴったりかおまいら。
どごん、と破壊音が響き、ひしゃげたフェンスが校庭に倒れこむ。
三人は落ちてくる私を受け止める心積もりだったようで、砕けたコンクリート片が飛び散る中、私の落下地点へと走り出した……が。
私は夜の炎で作ったワープホールを潜り抜け、無傷で地面に降り立っていた。
「「「なっ!?」」」
これに目をむいて驚愕した三人。私がその致命的な隙を見逃すはずがなく。
恭弥の胸に蹴りを、骸君の腹にも蹴りを、たぶん現在一番の食わせ物である総司君には咽もとと鳩尾に当身を食らわせて、三人を放射状に吹っ飛ばした。
結局使うことはなかった“狂桜”を鞘ごと地面につきたてて、私は三人の前に立ちはだかる。
「うぅっ…香耶さん僕にだけちょっと本気だった」
「………チッ」
「強い……っけど、まだいけます!」
「残念。ゲームはこれでお仕舞いです」
私の言葉にみんな驚いて表情を変えた。
「なっ……どうしてですか!」
「まだ終わりじゃないでしょ。ルールでは30分以内、校舎を無傷で、だったはず」
「君らはこの惨状を見て校舎は無傷だと言い張るつもりかな」
ため息をつきながら後ろを見渡せば、累々と広がるガラクタと化した鉄片やコンクリ。今日いっぱいは校庭が使えないだろう。
「恭弥。君がいくら並小を支配しててもね、学校の授業を阻む行為はしちゃいけないよ。君の在り方しだいで学校が意義を失ってしまう」
「…………わかった」
恭弥は根っからの支配者体質みたいだし。おねーさんは君の将来が心配だよ。
「あ。骸君はどこの学校に通うか決めた?」
「……僕は黒曜小にします」
「えぇー…どうして?」
今日の出来事がそんなに気に食わなかったのかな。そんな心配は、ちょっと顔を赤らめた骸君の一言で霧散する。
「制服がカッコイイから」
「そっちかい!」
無用な心配だった。私が昔幼い頃に通ってた小学校は私服だったのになー。
最後に私は首をさすってる総司君に近づいてしゃがんだ。
「大丈夫、総司君? 力はセーブしたつもりだったんだけど」
「イテテ…………なんてね」
「え」
にっこり笑った総司君が、私の首に抱きついてきた。
「つかまえた。……んー、香耶さんあったかくていい匂い」
じんわり汗のにじんだ首筋に顔をうずめてくる。
あ。今こいつ舐めやがった。見た目子供だからって何でも許されると思うなよ!
「やっぱり沖田君ばかりずるいですよ!」
「僕も」
骸君も恭弥も私にまとわりついてきた。このふたりがこんなふうに甘えてくることも珍しいな。
「……って、総司君はどさくさにまぎれてどこ触ってる」
「胸」
「天誅!!!」
総司君の脳天に手刀をかまして、私は仕方ないなと笑った。
並小でちゃんと授業を受けていた一君や平助君たちが、校舎内から呆れ顔で私たちを見ていた。
フェンスの修理費用は私のポケットマネーから捻出しようと思う。
ほんと。仕方ないな。