07
月神香耶side
ぱちんとスイッチを入れると、いままで人気もなく真っ暗だったダイニングに電気がともって明るくなった。
いつも思うけど、すばらしいな。文明の利器って。
「この部屋は……初めて来ますが、」
「ここ私の部屋」
「ええぇ!? 3LDKですか!」
「まぁ……ボスの私室だしね」
そんな私室に骸君を招き入れた。
和を基調とした、モダンでゆとりあるダイニングキッチンは……実はほとんど使ってない。
だってみんなと一緒に大食堂でごはん食べてるし。テレビ見たりとかゲームとかするのもみんなでやるしなぁ。
ダイニングの畳スペースにある、床を切って炉をもうけた掘りごたつ(この季節には炬燵布団入れてないけど)に興味を示した骸君。
お気に入りのふかふか座布団を用意して彼をそこに座らせ、私はお茶を淹れに行く。ばっちり60℃で蒸らした玉露を持って畳スペースに戻ると、骸君は炬燵に置いてあったカナダ製のダークチョコレートドライフルーツに手をつけてほっこりしていた。
おぉ。こんな年相応な表情の骸君見たことない。
「このチョコレート最高です」
「全部あげるよ。……一度に食べ過ぎないでね」
「いいんですか!」
嬉しそうにお礼を言う骸君を眺めて私は満足する。
骸君が改めて話し出すまですっかり本来の目的を忘れていた。
「香耶、信じられないかもしれませんが、僕は他人の精神世界を渡ることができるんです」
「精神世界……?」
「精神世界は……ひとの夢の世界ようなところだと思ってください」
精神世界……久しぶりに耳にする単語に、私の思考は一瞬幕末へとトリップしかけた。
実は私、幕末のあの時代、自分の精神世界に悪魔を一匹飼ってたんだけど……今はその話は関係ないので割愛する。
「へぇ。骸君の六道眼が作用してるのかな……。で、それがどうしたの?」
「……あ、はい、」
骸君は、私があっさりと奇想天外な話を信じたことに少し面食らったようだ。
「最近その幻想散歩が趣味なんですが、昨日珍しいことが起こったんです。」
「珍しいことって?」
「僕の声を聞き認識することが出来る少女に出会いました」
「ほぅ……」
それは面白い。骸君が散歩中、意図して気配を消していたにも関わらず、だとしたら。
「どうやら僕とかなり相性がいい……」
「……幻術のセンスを持っているようだね」
幻術は他の戦闘能力と違い、天性の資質である。
鍛えれば使いようによって骸君の力を大幅に増幅できるパートナーになるかもしれない。それこそ半身となれる可能性すらある。
「引き込むつもり?」
「……彼女の両親は体裁ばかり繕っていて、一人娘の彼女を蔑ろにしています」
「ネグレクト……かな」
「まぁ、生活費だけは充分に与えられているようですが……幻術の才があるばかりに常人に理解できない言動をする娘を、母親は気味悪がっています」
「リサーチ済みってわけね」
「あの娘を僕の力にしたい」
ギラリと彼の赤い右目が光った。
「……なるほど」
稀有な能力を獲得したい気持ちは分かる。
「けれど……骸君、君には充分戦える能力が備わってる。これ以上力を得てどうするつもり?」
新選組を抜けてマフィアを殲滅したいのか?
それとも。
「……僕はいつか、ここで部隊を率いて、人体実験などを認める全てのマフィアを駆逐する。そのためにまずは力をつけて、僕を……ひいては新選組をマフィア界の頂点にのし上げたい」
「へぇ……」
それはまた、ずいぶんと面倒くさそうなスローガンだ。私としては組織拡大とか興味ないんだけど。
でも。
「……じゃあ、私も百年に一回の本気をここで出してみようか」
私は挑戦的に笑う。
協力してみても、いい。
そう言ったら骸君は、目を見開いた。