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月神香耶side
私は浴衣のたもとをひるがえし、少年たちの前に立つ。こぶしを振り上げ、朗々と声を張り上げた。
「野郎どもーサイフとハンカチは持ったかー!」
『おぉ!!』
「部屋の戸締りはしたかー!」
『おぉ!!』
「夏休みの宿題は終わらせたかー!」
『お…おぉ!!』
「おい、今言いよどんだ奴、名乗り出ろ」
「無駄だぜ土方さん」
「ほぼ全員だったからなぁ」
成人組みには夏休みの宿題なんて関係ない、とばかりに和気あいあいの左之助君たち。歳三君もこれ以上追及するつもりはないようだ。
いまから夏祭りに繰り出すって言うのに無粋な話はなしにしようか。
ちなみに私は中学生のとき出された夏休みの宿題を受取って三日で終わらせたことがある(遊びたさに)……と言ったら、当時中学生だった歳三君が奮起してたった一日で夏休みの宿題を終わらせたことがあったな。あの記録はいまだ誰も打ち破れていない。
「香耶、僕の浴衣おかしくありませんか? どうも和装は初めてで」
「なに? 僕の着付けに文句あるわけ? 骸君」
「上手に出来てるし骸君に似合ってるよ」
「崩れたときは俺が直してやるからな!」
なんとなく険悪な骸君と総司君に、苦労性な平助君が割り込んでなだめる。
「なぁ、食いもん食べ放題ってほんとらびょん!?」
「あんたは誰にそんな事を吹き込まれたんだ。ちゃんと金を払って買え」
「あ、お金はひとり二千円までだからねー」
「犬、財布忘れてる……」
一方でとんちんかんなことを言いだす犬君に、一君や千種君が世話を焼く。
あまりの賑やかぶりに、私は自然と笑顔になった。
みんな浴衣を着て浮き足立っているみたい。ちなみに総長・監察方は留守番だって。
「ふぅん……今日の千鶴とクロームはいつもと違うな」
「あ、わかった?」
千鶴ちゃんは、顔を赤らめてうろたえるクロームちゃんと一緒に、貰ったばかりの紅を薫君に嬉しそうに見せていた。
千鶴ちゃんたちも来年は中学生だし、このくらいのおしゃれ、いいよね。
「よし、みんな準備はいいね。出陣ー!」
いざ、並盛神社へ!
並盛神社は大層込み合っていた。休日の商店街でもここまで人はいないのに、どこからこんなに沸いて出るんだ。
「じゃあここで解散。花火が始まるのは7時半からだから、その時間に境内に集合ね」
私の指示に、わかった、と子供たちは各々うなずいて、屋台へと繰り出していった。
「香耶さん、僕と一緒に行こうよ」
皆がはけるやいなや私の腕に飛びついてきたのは総司君だった。
「え、うーん……でも私には買出しという大事な使命が、」
「どうせコンビニでビールでも買うんでしょ。僕が付き合ってあげる」
「なんで知ってる!?」
総司君は、有無を言わせぬキラッキラの笑顔を振りまいてくる。
うん。連れて行くしかないみたいだ。昔から私は彼のこの笑顔に弱かったから。
「僕も飲めたらいいのになー」
「おいこら未成年」
「僕も行きます。沖田君だけじゃ心もとないですから」
今度は骸君が反対側の腕に手を絡めてきた。
「うん……っておい!? なんで槍なんか隠し持ってんの」
彼は後ろ手に三叉槍の穂先を隠し持っていた。物騒な。
「あわよくば邪魔な男を排除しようと」
「骸君、それって僕のことじゃないよね?」
「さあ」
私を間に挟んで強烈な殺気が飛び交っている。これ……間にいるのが一般人だったらすでに呼吸困難にでもなっていそうだ。
「や・め・ろ。喧嘩するなら連れて行かない」
「ごめん嘘嘘!」
「ハイ! 僕達こんなに仲良しですから!」
引きつった顔で肩を組む二人が面白すぎた。
花火の時間までにはまだ時間があるので、総司君と骸君を連れて軽く屋台を回った。
たこ焼きを食べ、綿飴を食べ、ビールのつまみにと焼きそばややきとりを買った。食べすぎかな。でもどうせ子供たちに取られるんだろうし、買いすぎて困ることはないだろう。
そうこうしているうちに花火の時間が迫ってきたので、コンビニに寄って神社に戻ることにした。
コンビニの冷蔵ウォークの前で悩むこと数分。厳選に厳選を重ね選んだ黒エビスのロング缶を四本購入し(歳三君と左之助君と新八君の分も入ってる)、会計を終え周りを見回すといつの間にか総司君と骸君はコンビニ周辺から消えていた。