12
六道骸side
クフフ。ここからは輪廻の果てより舞い戻った不詳、六道骸がお送りしましょう。
我々は雑踏を抜け香耶の当初の目的地だったコンビニへとやってきた。先ほどまでの混雑が嘘のように人がまばらで、まるで夢から覚めたような錯覚を覚える。
香耶はアルコールのことで頭がいっぱいのようで(彼女は子供たちに気を使ってかめったに飲まない)、自動ドアをくぐった瞬間に感じた剣呑な視線に気付かなかったようだ。
誰かが敵意を持って僕たちを見ている……。
「香耶さん、僕たち、外で待ってるね」
「うん。遠くに行かないでね」
沖田君も気付いていたようで(不本意だが沖田君のほうが僕より腕が立つ…)、僕のことを一瞥してコンビニの外に飛び出した。もちろん僕もその後に続き、夜の帳が支配する路上へと走り出した。
──今までがおかしかったのだ。この並盛において絶対の支配者……彼に今まで遭うことがなかったことのほうがおかしかった。
そう。このようなイベントには、部下の風紀委員を従え治安維持と所場代回収の目的で祭りを徘徊する……。
「……雲雀恭弥」
「六道骸に沖田総司。中学生以下の子供はこの時間に保護者の同伴無く出歩くことは禁止されている」
言いながら雲雀は凶悪な笑みを浮かべてトンファーを構えた。
保護者……香耶はコンビニの中に置いてきた。しかも雲雀こそ僕達と同学年(中学一年生)のはずだ。
だいたい、保護者がいたらいたで、群れてるだとか難癖付けられるに決まっている。
──そう。どんな言い訳をしようとも、この男は許しはしないだろう。
なぜなら。
「咬み殺す」
奴は僕達を咬み殺す口実が欲しいだけなのだから。
「骸君」
沖田君はおもむろに僕に向かって手を差し出した。
「……僕は君の便利な道具係じゃないんですけどね」
「なに言ってるのさ。骸君、僕に挑んで25戦25敗のくせに」
「違います! 24敗1引き分けです!」
我ながら情けない主張だが、僕にもゆずれないものくらいあるんです。
言外に渋々だと態度にこめつつ、三叉槍を操って有幻覚を引き出す。
沖田君の手の中で密度の濃い霧が日本刀へと姿を変えた。
それを見た雲雀が目をすがめる。
「へぇ。今日は本気なんだ。沖田総司」
「学校に刀を持っていくわけにはいかないでしょ」
雲雀はよく僕達に……というより沖田君に張り合うようなふしがある。その気持ちは僕にも分かる。
なぜなら沖田君は──
「行くよ」
「ぐちゃぐちゃにしてあげる」
ギン、と金属がぶつかりあった。
──新選組組長最強の剣の腕を有しているのだから。
「っ!!?」
沖田君は最初の一撃で雲雀の左のトンファーを巻き上げ跳ね上げた。
かろうじてトンファーを放すことは無かったが、大きな隙を作ったその瞬間に沖田君は鞘で雲雀の咽とみぞおちを突く。鞘を使った二段突きだ。
しかし雲雀は吹き飛ばされるその瞬間にも残ったトンファーを振るい横に薙いだ。なんという戦いへの執念。
「うわっ前髪が!」
沖田君はトンファーの棘のギミックを紙一重でかわしたが、顔にかかっていた前髪が真横に切られ、茶髪の毛先が宙に待った。
「クフッ……沖田君がぱっつんに……!」
「パイナップルに笑われた!!」
笑ってやると沖田君はこの世の終わりのような顔をした。
パイナップル……どいつもこいつも僕をなんだと思ってるんでしょうか。クロームだってこの僕にあこがれて同じ髪形にしたというのに。
「クフフフ。そろそろ僕も参戦しましょうか。雲雀、沖田君。堕ちろ。そして巡れ」
「!」
「え、僕も?」
とんと三叉槍の石突で地面を叩けば、地面のアスファルトがぐらりと揺れた。
「第一の道、地獄道」
さあ、僕の幻覚を食らって日ごろの行いを後悔しなさい。
僕の幻覚は周囲の景色を飲み込んで咀嚼したように崩れていく。
六道スキルの一、地獄道は敵に強力な幻覚を見せ、精神にダメージを与える技だ。
さすがの雲雀も沖田君も少々顔色が悪い。一気に優位に立った僕は、悪役のような笑みを浮かべて高いところからふたりを見下ろした。
が、しかし。
突然後頭部に強い衝撃を受けて、その幻覚は一瞬で霧散した。ついでに沖田君の手の中の有幻覚も消えた。
「痛っっ〜……なんなんですか一体!」
「むーくろくーん、今何しようとしたー?」
「はっ! ……香耶!」
缶ビールの入った買い物袋を構える香耶を見て、僕の顔から血の気が引いた。
仲間や一般人を殺してはいけない。一般人の前で死炎・幻覚を行使してはいけない。香耶から言われた禁を自分は破ろうとしている。
「……すみません。頭に血が上りました」
香耶が止めてくれなければ、局中法度に遵って僕自身が粛清されていたかもしれないのだ。
すっかり消沈した僕をみて、香耶は困ったように笑った。
「ごめんね。私もわりと本気で殴った」
……その缶ビールで、ですか。
思わず患部をなでると、当たり所が悪かったのだろうか。大きなたんこぶが出来ていた。すごく痛い。
「総司君、恭弥……大丈夫?」
「別に」
「僕も」
「…………」
ふたりもとりわけなんともなさそうだ。
が……香耶は不自然に沈黙している。彼女の視線は沖田君に注がれていた。
「どうしたの、香耶さん?」
「総司君……その頭」
「……! あっ!!」
先ほど雲雀にぱっつんにされたことを思い出した沖田君は、額を隠しながら彼女から距離をとった。
あんなに顔を真っ赤にして動揺する沖田君は珍しい……いや、初めて見る。
「ぼ、僕、さきに帰る!!」
「え!? 総司君!」
颯爽と走り去った沖田君の背中を見つめながら、香耶は可愛かったのに、とこぼした。
香耶……思春期の男子中学生の心情を理解してあげてください。沖田君がさすがにあわれです。
「ところで香耶、そのビール……飲むつもりかい?」
「あ」
僕を殴った衝撃で、今にもぱんぱんになって破裂しそうな缶ビールを握り苦笑する香耶。
そんな彼女の背後で、今日初めての花火が打ちあがった。
どんな失敗も、嫌な出来事も。いつか笑って話せる思い出になるのでしょうか。
僕は香耶と花火を視界に納めてうっすらと微笑んだ。