05
月神香耶side
「お姉さん、ちょっと付き合ってくんね?」
「そうそ。ひとりなんでしょ。時間とらせないからさー」
下心みえみえのヤンキーに絡まれる私がそこにいた。
思わず達観した表情で、うんざりしたため息が出る。
ひとりで出歩くなという歳三君や敬助君の言いつけを当然のごとく破り、街をぶらぶらしていたとある平日の午後。
高校生くらいの男ふたりに行く手を阻まれ、声をかけられ、肩をつかまれ、髪を撫でられたところで、私は目の前の男をぶん殴るべく拳を握りしめた。
が、私の右ストレートが男の鼻骨にヒットする前に、介入してくる奴がいた。
「おい、俺の女に何してやがる」
キュン、とサイレンサー特有の音がすると同時に、私の髪を掴んでいた男の頬を銃弾がかすめた。
声のしたほうへ一斉に振り返ると、そこにいたのは銃口でボルサリーノの鍔を上げる、黒スーツをかっこよくキメた赤ん坊で。
「う……っそ、リボーン!?」
「あいかわらずだな、香耶」
私にとってはかなり久方ぶりに見る顔なじみだった。
しかし空気の読めない男達は、私の手首を力いっぱい掴んで自分のほうへ引き寄せる。爪を立てられて、その痛みに微妙に表情を歪めると、その刹那。
男達は私を残しその場から吹っ飛んだ。
「俺と香耶の再会の邪魔をするとは命が惜しくねえようだな」
「おお……」
どうやらリボーンが奴らを蹴り倒したらしい。
赤ん坊に蹴られて数メートル飛ぶってすごいな。末恐ろしい赤ん坊だ。ただの赤ん坊じゃないことは知ってるけどさ。
「とりあえず助けてくれてありがとう」
「マフィアは女に優しくするもんだからな」
しゃがんで彼に目線を合わせると、さきほど男につかまれた左の手首を優しくとられる。
手首は赤くなっていて、しかも引っ掻き傷ができていた。
それがゆっくり消えてなくなるのを二人でみつめる。
「……これもあいかわらずだな」
「うーん、でもアザのほうは治りに少し時間がかかりそうだなー」
手首には男のてのひらの形のアザだけがくっきりと残っていた。なんだかホラーだ。
「悪ぃな。助けるのが遅れたみてえだ」
「へーきへーき。痛くないもの」
了解を取ってリボーンを抱き上げた。
紳士な言葉と温かい体温に癒される。いいなぁ、子供またほしいな。
「ところでいつ日本に?」
「しばらく前にな。おまえもいずれ知るだろうから言っておくが、ボンゴレの10代目候補がジャポーネにいるんだぞ」
「あぁ。知ってる知ってる。ボンゴレプリーモにそっくりな子でしょ? 並小にいた」
「なんだ、知ってたのか。今は中学生だけどな。俺はそいつの教育を任されたんだ」
「へぇ……」
並盛商店街を歩きながら、ちょっと気弱そうな、あの子の顔を思い出す。
「あんまりいじめてやんないでよ」
「それはあいつしだいだな」
「可哀想に」
リボーンの不敵な笑みには同情しかこみ上げない。
その後は取り留めない話をしながらあてもなく歩いていると、並中方面からよく知る顔が近づいてきた。
「お。総司君と一君、おかえりー」
「……ただいま」
「ただいま、香耶さ……ん!?」
そして彼らは私と私の腕に抱かれたリボーンを見て、サッと表情を変えたのである。