12
沖田総司side
「あ、の……山南さん」
「おや、沖田君。私になにか?」
「香耶さんのことで聞きたいことが……」
執務室から出てきた山南さんを捕まえて、誰もいない会議室に連れて行った。
周囲に人の気配がないか念入りに確かめ、廊下を誰かが通るかもしれないことを考慮して、入り口から遠い窓際に移動する。
「ずいぶん警戒しますね。沖田君は香耶のことでなにが聞きたいんです?」
「……香耶さんには、僕以外に夫がいたって……本当ですか」
「あぁ……ジョットのことですか」
山南さんはなんでもないことのように応えた。
「沖田君は新選組の中でも早くに亡くなりましたからね。知らないのは無理もありません」
「…………」
やはりそうなのか。なにかの間違いだと……思っていたかったのに。
「香耶さんは……、その……自分の意思で?」
「どういう意味ですか?
……彼女は自分の行動を自分で決める。何事にも縛られることはない。それは幕末のあの時代から、君が一番よく分かっていたでしょう」
分かっている。きっと二度目の結婚も……。
「……君はそれを裏切りだと思いますか」
問われて僕は山南さんへと視線を跳ね上げた。
裏切り……にはならない。香耶さんが、死んだ僕にまで操を立てる義理はない、と思う。
思うけど、でも、僕の気持ちは。
「君と香耶の間に生まれた子供は、君が亡くなってから後を追うように亡くなりました。
そして他の新選組隊士も次々と……不老不死である私と香耶は、その全ての者ひとりひとりを看取り、荼毘に付し、葬りました」
山南さんの話を静かに聞く。
それは、香耶さんの軌跡でもあるから。
「香耶は沖田君が亡くなって、そして君との子も失い、深い絶望の中にいました。
そんな彼女に再びひとを愛することを教えたのが、ジョットです。亡き夫と息子への想いも嘆きも、いつか懐かしい思い出になることと割り切って、新しい希望をはぐくむ。そうしなければ、香耶は生きてゆけなかった」
不老不死じゃない僕には、香耶さんの悲しみも、絶望も、理解することなどできないのかもしれない。
「もう二度と時渡りをしないと決めた私たちは、この世界で大切なものを得るたびに、その最期を看取る覚悟もしています」
言いながらガラス越しに空を見上げる彼の目には、遠い、明治の時代の風景が映っているのだろうか。
僕の、知らない香耶さんを、見ているのだろうか。
「……山南さんは……香耶さんと一緒になろうと思わなかったんですか?」
僕のその質問に山南さんの凪いだ瞳が僕に向いた。
「新選組にいた頃から、山南さんは香耶さんのことを……」
「……ええ、好きでしたよ。今でも」
さらりと呟かれた告白に、長い年月と苦悩を感じて。
「好きになったひとが彼女だった。そこに後悔はありません。辛いことも多いけれど、私は彼女にいだくこの想いを、誇りに思っています」
たとえ彼女が手に入らなくとも。
そう言い切った山南さんが、すごくかっこよくて。僕は二の句を継ぐことができなかった。
「しかし沖田君はそうじゃないでしょう」
「え、」
「沖田君は、彼女に思いを寄せる男達の中で最も優位な位置にいます。だというのにこんなことで躓いて、六道君や雲雀君に先を越されたのでは、やりきれないでしょう」
「山南さん……」
かなわないな。本当に、このひとには。
『けいすけくーん、どこー? 次の書類ー!』
執務室から香耶さんが声を張り上げる。その声に僕の心臓が跳ねた。
「はいはい。今行きますよ」
山南さんの表情が変わる。呆れたように、でも嬉しそうに。
「仕事の途中なので失礼します、沖田君」
「……ありがとうございました」
頭を下げた僕に、山南さんは微笑んで会釈し、そして会議室を去っていった。