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沢田綱吉side



『十代目ー! ご無事ですか!』

煙の向こうから聞こえる獄寺君の声。
それに答える前に腕を引かれて、俺はびっくりして後ろを振り向いた。

「え…!?」

「やあ。久しぶりだね、綱吉君」

「香耶、さん!?」

そこにいたのは、かなり久しぶりに見る、あいかわらずひとを惹きつけてやまない銀髪碧眼。
月神香耶さんだった。

あ、あれ、香耶さんって俺の名前、知ってたっけ……? 母さんに聞いたとか?

香耶さんはもうもうと上がる砂煙から俺を引っ張り出す。
手を繋がれたまま、足場の悪い校庭(死ぬ気モードの俺が地面をボッコボコにした)から校舎へと走った。

「なんでここに……あぶないですよ!」

「へーきだよー。この程度で転ぶような鍛え方はしてないさ」

自信ありげに言うこともあって香耶さんはとても身軽に走っていた。転びそうなのはむしろそんな彼女に手を引かれている俺のほうだ。情けない。



「十代目!? なんですかその女っ」

校舎側で俺たちを待ち構えていた獄寺君は、香耶さんを見て不審者と勘違いしたのか、手にダイナマイトを構えた。
そんな状況にもかかわらず、少しも動じる様子のない香耶さんは、ぱちぱちと瞬きをして獄寺君を見つめる。

「あぁ、確か……スモーキン・ボム・隼人」

「なっ…!? なんで俺の名を知ってやがる! 十代目、こいつ裏の人間っすよ!!」

危険です、下がってください! なんて獄寺君は俺の腕を掴んで引っ張る。香耶さんと繋いでいた手は簡単に外されてしまった。

あああっどうしよう! とにかく獄寺君の誤解を解かないと!

「落ち着け獄寺」

まっ白になっていた俺の目のまえで、しかし獄寺君はリボーンの飛び蹴りを頭に受けて撃沈した。
そのリボーンとなぜか一緒に振ってきた俺の理科のテストが、香耶さんの頭にパサリと落ちる。

「あ……あああそそそのテストは違うんです香耶さん!!」

「おお……こんな点数見たことない」

26点のテストォォォ!!!
それを手に取り香耶さんは表情を輝かせた。

「綱吉君って可愛いなぁ」

「なんでそうなったのーっ!!?」

香耶さんの考えることってわけ分かんないよ!



移動しようか、と言われてやってきた校舎裏。
あのまま校庭にいたら、俺たち怒られるどころじゃすまないから助かった。(リボーンは逃げた)

裸の俺に獄寺君はシャツを貸してくれたけど……パンツとワイシャツだけってかっこ悪……リボーンの奴、覚えてろよ。
これ以上悪目立ちしたくないのに!

「はじめまして、だね、獄寺君。私は月神香耶」

「けっ、年上に名乗る名前は持ち合わせてねぇ」

「なに言ってんの!? 香耶さんは俺の大事なひとなんだから酷いこと言わないでよ!」

「十代目の大事なひと……!?」

そう、大事な……って、

「あら。ありがとう」


俺、本人の前で何言っちゃってんのー!?

ぼぼぼっと顔に熱が上がる。

いや違う! たっ、確かに香耶さんは大事なひとだけど好きって意味じゃなくって、いやでも香耶さんが嫌いって意味じゃなくて……って言うか俺の好きなひとは同じクラスの笹川京子ちゃんだしああああ俺どうしよう無意識に大事とかっでも香耶さんは大事だしこれが俺の本心なんだよなってことは俺香耶さんのことが好きだったりするのかよ二股とか俺そんな馬鹿なってか香耶さんどう見てもハタチくらいにしか見えないけど俺と同じ年頃の子供がいるらしいからたぶん人妻……香耶さんが人妻って俺なんかすげーがっかりなんだけど!



「大丈夫ですか十代目!」

「十代目は今自分の中のなにかと戦ってるみたいだね」

からりと笑う香耶さんが、今はなんだか恨めしかった。

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