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六道骸side
「ふぅむ……」
「香耶? こんなひとの集まるダイニングで書類を広げて……なにをうなってるんですか」
「ちょっとねー。あ、骸君、なにか飲む?」
「では香耶と同じコーヒーを」
「おっけ」
香耶は読んでいた書類をテーブルの真ん中におざなりに置く。
そのまま気分を入れ替えるように立ち上がり、ひとつ伸びをして給湯スペースに向かった。
彼女が座っていた席の斜向かいに座ると、香耶の読んでいた紙が目に入った。
それは、イタリア語の書類だった。
「香耶、これは……」
「ああ、見てもいいよ」
僕が読んでも差し支えないものらしい。日本に住んでいればめったに見ることのないイタリア語にざっと目を通す。
「Importante segreto.ボンゴレ\世から新選組ボスに宛てた正式な依頼状ですか」
ボンゴレとはイタリアに本部を置く世界屈指のマフィアの名だ。
手紙の上にはボンゴレの現ボス、ボンゴレ九代目からのものだと示す死炎印が押されている。
って言うか、ご丁寧に重要機密と書いてあるのに、本当に僕に見せてもいいんですかね。
「並中にボンゴレ十代目候補のひとりがいるのを知ってるよね?」
「ええ、まぁ」
新選組構成員のなかでは知られた話だ。たしかそのボンゴレ十代目候補と藤堂君がクラスメイトだと聞いている。
「まぁいろいろとはしょって説明すると、十代目候補君とその守護者候補たちを鍛えてやってほしい、っていうのが依頼内容なわけよ」
「ほぅ……」
「十代目候補の家庭教師である晴のアルコバレーノ(リボーン)と私は顔なじみだし、好条件がそろってるから二つ返事でOKしたんだ。でも、具体的にどうしようかなーと思って。ぶっちゃけ向こうもみんな私と面識あるし」
「直接戦闘などを指導するというわけではないんですか?」
「それはあの有能な家庭教師がいれば事足りるでしょう。私たちが教えるのは、マフィア同士の駆け引きとか、抗争とか」
「なるほど。だから九代目は新選組に依頼してきたんですね」
ボンゴレ十代目候補は、裏の世界を何一つ知らない一般家庭で育った子供だという。
そんな子供に欧州…ユーラシア大陸のマフィア界の頂点を継がせようなど、ボンゴレ九代目は何を考えているのやら。
マフィアは忌々しいものだ。ひとの命の価値などその辺に落ちているゴミ屑同然の世界で。
他人の命を奪うことを僕にどうこう言う資格はありませんが。
僕だって人を殺したことがありますからね。あの全ての始まりの場所、エストラーネオで。
「香耶、この仕事、僕たちに任せてはいただけませんか」
「え」
香耶は僕の言葉に意外そうに顔を上げた。
マフィア嫌いを公言する僕が、こんなことを言うのが意外なのだろう。
「僕は学校が違いますから十代目候補やその守護者候補たちと面識はありませんし」
「うーん……確かにそうだけど、こういう荒事は実働部隊に任せたほうが…」
「僕にやらせてください」
「骸君……」
香耶は困ったような表情をした。
確かに僕にはまだ任務経験は無いし、香耶が出し渋るのも分かる。
だけど、僕は。
「いつまでも香耶に甘えて安全なところにいるわけにはいかないんです。僕にも、きっとこの経験はプラスになる」
香耶は言った。僕の、悪徳マフィアを駆逐し、新選組をマフィア界の頂点にのし上げる。その目標に、協力してもいい、と。
新選組のボスである、香耶が。
何年……何十年かかっても。
香耶は一度、僕の言葉を噛み締めるように瞳を閉じた。そして。
「……ボンゴレ十代目候補、及びその守護者の適正を試験する。やり方は君に任せるよ、骸君」
「香耶……」
「クロームちゃんも連れて行っていいけど、彼女は今回裏方で。ま、実戦見学ってとこかな。初めてだし」
香耶は新選組の女性陣に甘い。自分だって女性だと理解してるんですかね?
「君の思うとおりにすればいい。責任は全部私が負う。それがボスの仕事だからね」
「……はい」
絶対に失敗はできない。