19
月神香耶side
華奢なようで逞しい恭弥の背中にしがみついて一時間。
上機嫌で手に入れた愛車を転がす我が教え子は、男のくせに腰が細くて、しかも清潔感のあるいい匂いがした。変態か私は。
どんな荒っぽい運転をされるかとどきどきしていたけれど、予想に反してふつうだ。一応最低限の交通ルールは守れている。(中学生が公道を運転してる時点でアウトだけど)
大型バイクの運転は初めてだと言っていたけれど、一度も転ぶようなことも無かった。
「……香耶が後ろにいるんだから転ぶわけにはいかないだろ」
「え! なに、聞こえなかったんだけど!」
「背中に大きくもない胸が当たってるなって言ったんだよ」
「なんだと!? 粗末で悪うございましたねえ!! もう降ろせこのエロガキー!」
ちょうど信号機の手前で止まったので暴れだす私の手を、恭弥は痛いくらい掴んでまた自分の腹に回させた。
その力強さに内心ドキッとする私がいて。
「場所を考えなよ。あぶないだろ。君に死なれたら僕が困る」
「ごもっともだけど場所を考えろとか君に言われたくなかったよ……」
優しい声音で言われたのになんでだか腑に落ちない。
私はメット越しに恭弥をにらみ、また彼の背中に身をあずけた。
しかしそれからしばらくしないうちに、私はバイクを飛び降りることになる。
「あ、恭弥っ止めて止めて!」
「なに?」
恭弥は路肩にバイクを止めて、私が指差す方向に視線を向ける。
その視線の先には。
「綱吉君、獄寺君!」
「あ、え!?」
「その声……香耶か!」
学校帰りらしい綱吉君たちの姿。
私はヘルメットをシートに置いて彼らに駆け寄った。その後ろでバイクにまたがったままの恭弥がぶすくれていたなんて、知る由もなかったけれど。
今日は綱吉君と獄寺君のふたりだけではなかった。もうひとり、短髪で長身でおそらく運動部だろうエナメルを肩から下げている男の子がいた。
「ツナと獄寺の知り合いか?」
「あ、山本は知らないんだっけ。このひとは月神香耶さんって言って、」
「よーく聞けよ野球馬鹿。香耶はな、十代目のおも」
「わあああぁぁ違うなんでもないからね山本! 香耶さん!」
綱吉君は常に無く俊敏な動きと直感力で、何か言いかけた獄寺君の口をふさいだ。
十代目の『おも』……なんだろ?
「へぇー、香耶さん、でいいすか? 俺は山本武っす。よろしくっす」
「よろしく山本君。私のことは呼び捨てだろうとクソ女だろうとなんでもかまわないよ」
「ハハハ、さすがにそれは……香耶さんおもしろいひとっすね」
「でしょう? 私、みんなのおもちゃなんだよ」
「やめて! ふたりとも『おも』だけ強調するのやめて!(『想い人』って出てきちゃったらどうすんのーっ!?)」
パニックの綱吉君を山本君となだめたり、なぜか綱吉君に向かって土下座する獄寺君をなだめたり……あれ、私、今日一日コマンド『なだめる』しか実行してないな……
「あ、あの、それより香耶さん……あのひとが」
「うん?」
綱吉君が顔を青ざめさせて指差す方向をみると、そこには律儀にも私を待ってくれてる恭弥と単車の姿。
うわぁ。聞かなくても分かる。あれは殺気立ってる。トンファー取り出す三秒前ってかんじ。
「そういえば香耶さんバイクの後ろに乗ってたっすね。もしかしてあのひと彼氏っすか?」
「(聞きにくい事を堂々と聞いちゃったよー!!)」
並盛で恭弥はそこそこ有名人だけど、今はフルフェイスのメットをかぶったまま(←嫌がってたけど無理やりかぶらせた)で大型バイクにまたがってるし、私が背中にしがみつくためにいつもの学ランは片付けさせた。一見して彼が雲雀恭弥だとは分からないだろう。
山本君の質問は恭弥にも聞こえたらしく、突き刺さるような殺気がいくらか和らいだ。調子のいいやつめ。
「つか、香耶って結婚してるんじゃねえのか? だったらあれが旦那だろ」
「だっ、旦那ぁ!?」
「ヤダ、獄寺君たら。違うよー。あの子まだ中学生だもん」
「ええぇ!? 中学生が彼氏!? でも香耶さんってたしか子供がいるんじゃ…?」
「子供? あぁ、養ってる子ならいっぱいいるよ。実の子は一人もいないけど」
最後の夫であったジョットとそっくりな綱吉君のまえでこんな話しをするのは、不思議な気分だ。時が経つのって早い。