20
月神香耶side
「香耶」
私の彼氏が誰だとか話が展開したタイミングで、恭弥が私の名を呼んでフルフェイスヘルメットを取った。
メットから現れたその容姿に、三人は息を呑み目を見開いた。
「ヒバリ!!?」
「ひいぃなんでヒバリさんがー!?」
知り合いだったらしい。
恭弥は好戦的に唇の端をつり上げて、つかつかと私たち……いや、正確には私に向かって歩いてくる。
群れを前にしてるが一応まだトンファーは出してない。
「彼は雲雀恭弥……ってのは知ってるか。恭弥は私の、」
「恋人だよ。文句ある?」
「いや違うからね。勘違いを助長させんなよ」
弟子、と言おうとしたのを遮られた。
どころか、恭弥は三人の前で私の肩を抱き寄せ、反対の手で顎を持ち上げてきた。
「ちょっと待っ」
「あの応接室で君の中につっこんで死にそうになるほどぐちゃぐちゃに犯してあげたのを忘れたって言うの?」
口の中を舌でな!!!
とんでもない誤解を招く言い方に反論する間も与えてくれず、恭弥は私の唇を塞いだ。
「ん、んぅ……っ」
「……っふ、」
何度も角度を変え、吸い付いて貪るような口付けに、今この状況を見てるはずの三人の存在さえ忘れてしまいそうになる。
けど、ジーンズのウエストとシャツの隙間から自分のものでない手が這い上がってくるのを感じて、私はその恭弥の手をはたき落とし、身体を強引に突き放した。
「っはぁ、はぁっ、ひ…人前でこんな……!」
「なら、ふたりきりだったらやらせてくれる?」
そういう問題じゃねえ。
ふたりぶんの唾液でどろどろになった口元を拭う。
ギャラリーに徹していた三人に視線を向けると、それぞれ顔を真っ赤にしてる三人全員と目が合って、私はそっと目線を逸らすしかなかった。
「……わたし、かえる」
くるりとその場の男達からきびすを返すと、まず真っ先に恭弥が私の手首を掴んでくる。
「香耶、泣いてるの? ……ごめん、やりすぎた」
『(ヒッ、ヒバリが謝った!!?)』
恭弥の意外なセリフに周囲がどよめく。
「……べつにないてないし」
「うん。でも泣きそうな顔してるよ」
「むりやりとか、ひとまえとか、私がいやなの知ってるくせに」
「うん。次は誰もいないところで閉じ込めて『うん』しか言わせない状況で襲うことにする」
「そ、それ解決になってませんよ!!!」
お、綱吉君のツッコミ魂が黙っていられなくなったらしい。
しかし恭弥はそれすらも無視して、私の行く手を遮ってきた。
「帰るなら送るから乗りなよ」
「いい。徒歩で帰るもん」
謝ってはいるものの、いまいち反省の意が見られないので、しばらく拗ねて困らせてやることにしよう。……なんだかどっちが大人かわからん。
このやりとりもなんだか喧嘩してるカップルにしか見えないよな……と我ながら思うのだけど。
ごめんね、と綱吉君たちに会釈すると、彼らはぶんぶんと顔を横に振って『さようなら!』『また会おうぜ』なんて返してくれた。いい子達。ちょっと癒されたよ。
足早に帰路に着く私と、それをバイクで追う恭弥を見送り、残された三人はほっと息を吐く。
「香耶さんってすげぇのな」
「ヒバリさんがとにかく本気なんだってことは分かったけど……」
「香耶の奴、男の趣味が悪すぎだろ」
こんな会話がされていたなんて、私は知らない。