21
月神香耶side
読書の秋である。
「……香耶様、それ」
「うん? 本?」
今日は共同ダイニングでお菓子をつまみながら読書中。
クロームちゃんがそんな私に気付いて足を止めた。
いつも一緒にいる骸君たちはいない。任務のための準備を始めているから。
「い、いえ……」
「あ。麦チョコ? ほしい?」
「!」
クロームちゃんの顔がぽわっと赤くなった。可愛いな。
「一緒に食べよ。私の食べかけでよければ」
その言葉に彼女はほんの少しだけ躊躇ったあと、こくりとうなずいた。
「香耶さん、クロームちゃん、ここにいたんだね」
「千鶴ちゃん」
「あ、おかえり千鶴ちゃん。今日は一人で帰ってきたの?」
「はい。平助君は居残りで……」
「それに薫君がつき合わされていると?」
私の言葉にうなずいて、千鶴ちゃんはクロームちゃんの横に座った。
「今年は同じクラスじゃなくなったんですけど……、平助君が薫君ほど頭のいい友達がいないんだって食い下がったんです」
「ふぅん。薫君ってもしかして、すごい教え上手だったりするのかな」
その疑問には千鶴ちゃんもクロームちゃんもうなずいた。やるなぁ薫君。頼まれたら断れないツンデレ。
麦チョコを三人でちまちま食べながら、学校で何があったかとか喋る。
「そういえば香耶さん、あの……並中の風紀委員長の、雲雀さんのことなんですけど」
「うん?」
千鶴ちゃんの口から恭弥の名前が出るのは珍しい。
恭弥といえば彼はこの間、並中の体育祭で学ランのまま棒倒しに参加していたらしい。らしい、というのは、私は体育祭を見に行かなかったから。理由はボンゴレの工作員が来日してきたからその対応と、あとは秘密裏に監視の段取り決めなど、要は仕事をしていたためで。
「香耶様、あたらしい麦チョコ開けてもいい……?」
「うん、いいよ」
「あの……うわさなんです。あくまでうわさなんですけど」
「うん。千鶴ちゃんは落ち着いて」
焦った表情の千鶴ちゃんは、満を持して口を開いた。
「香耶さんと雲雀さんが往来で……じょ、情事に及んでいたって嘘ですよね!」
「ブフォッゴホッ!!」
私は吹き出した。
「……千鶴ちゃん、『じょうじ』ってなに…?」
「え!? ……っと、それは……、だ、男女で愛をはぐくむアレのこと、みたいな?」
「?」
しどろもどろになってしまった千鶴ちゃんに、クロームちゃんが首をかしげる。私はその様子を見て苦笑した。
「まぁ……浮気とか愛憎のアレコレって意味もあるけど、今の言い方だとたぶん……性行為ってことじゃないかな」
クロームちゃんが目を大きく見開いて顔を真っ赤にした。ちょ、開けたばかりの麦チョコの袋がテーブルに倒れたよ。
「今、並中の女子の間で広まってて……」
「んー……バイクの後ろに乗せてもらっただけなんだけどなぁ(キスもされたけど)。女子の噂って怖いね」
仮に恭弥とやるにしても往来は無いだろ。
私はため息をつきながら閉じた本の上にうなだれた。転がってきた麦チョコをつまんで口に放り込む。
「それでもし、そのうわさが沖田さんの耳に入ったりしたら、と思って……」
「ああ、総司君かー」
「……血の雨がふりそう」
「あはは、やばいねぇ」
「笑い事じゃないですよ」
ふくれる千鶴ちゃんに苦笑いを返し、私は頬杖をついて本のページをぱらぱらとめくる。
「そんなうわさを鵜呑みにするような子じゃないでしょ。あれでも精神年齢はだいぶ食ってるからね」
ま、それは転生者全員に言えることだけど。
ぱたんともう一度本を閉じ、私は伸びをして椅子から立ち上がった。
「ねえ、ふたりとも、なんか飲むものほしくない? 淹れてくるよ」
「あ、ありがとうございます。じゃあ紅茶をおねがいします。クロームちゃんはどうする?」
「じゃあ、私も……」
「おっけー」
鼻歌を歌いながらケトルを手にする。
基本的に自分に対する評価などは気にしないたちである。
私は恭弥と総司君のことをちょっと気にしながらも、数分後には思考の片隅に追いやって女の子たちとの話に興じるのだった。