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沖田総司side
香耶さんが誰々とどこどこで抱き合ってたとかってうわさは、体育祭の前からあった。
かくいう僕だって商店街で香耶さんにキスしたことあるし。
そういうのの延長上のものばかりかと思ったら、今回ばかりは違うみたいだ。
「香耶さんが雲雀君と……一君は知ってた?」
「いや……平助のクラスメイトがふたりの口付けを目のまえで見たと話していたと、俺は平助から聞いたが、所詮いつものうわさだろうと気に留めていなかった」
「でもあの日ふたりで出かけたのは本当みたいだし……どこまでが本当か分からないな」
ぎりっと歯軋りする僕を見て、一君は早まるなよ、なんて言ってたけど。
とりあえず雲雀君に会っても自分の殺意を刺激するだけだろうと思って、殺人事件をおかす前に、まずは香耶さんに聞いてみることにする。
夜中に彼女の部屋に忍び込んで、寝室で眠る香耶さんの唇を塞いで。
俗な言い方だけど、からだに聞いてみようと思った。
僕がつけた紅い痕を身体に散らせる香耶さんは、めまいがするほど綺麗。
この時点で香耶さんが雲雀君と付き合ってるとか、そんなうわさは嘘だって解かったけど。
こうして、彼女を押し倒して、肌に触れて、体を繋げることができたら、きっと僕の勝ちだ。
そう思った。
香耶さんの空色の瞳が、一瞬夜色に染まるまで。
「私は総司君のこと、たぶん男として誰よりも特別な存在だと思ってる」
「香耶さん、」
だったらなんで、そんな顔をしてるの。
悲しそうな、大事なものを失ったような、そんな顔を。
「…っ!?」
ぼっ、と夜の炎が視界をかすめ、僕は反射的に身を起こした。
「だからこそ、君が取るどんな些細な行動でも、良くも悪くも私のこころに影響するんだ」
香耶さんを包む夜の炎。嫌な記憶がフラッシュバックする。
彼女が僕から離れるのはいつも決まって、僕の独りよがりな言動が原因だから。
「今の君に抱かせてあげるわけにはいかない」
「!」
きっと失望させた。
視界を闇色の炎が埋め尽くす。
僕は、
「香耶!!」
あんな後悔をするのは、もう嫌だ。
炎なんてかまわず香耶さんの服を引き寄せて抱きついた。
強く、渾身の力で。
「ごめん……っ」
僕は馬鹿だ。大事にしたいと、思っていたはずなのに。
泣きそうに歪む顔を、いい匂いのする彼女の髪に押し付けた。だから香耶さんがどんな表情をしていたか分からなかったけど。
ふわりと浮遊感を感じると同時に、彼女の手が僕の背中に回ったから。
きっと間に合ったんだと思う。