24
月神香耶side
総司君から逃げるつもりで使った夜の炎で、総司君ごとワープしてしまった。
さてどこに出るのやら。
私たちが夜の炎で着いた先は、深夜の廃墟だった。
うわぁ不気味。
私を圧死させるつもりかってくらい強く抱きついていた総司君が、瞬時に私を背中に回して周囲を警戒する。
座った状態の私は、床についていた手を払ってげんなりした。
スリッパでも履いてくればよかった……。
「香耶さん、刀貸して。誰か来る」
「あ、うん」
その前にまた夜の炎でとんずらすればいいんじゃないかな……?
でも私の勘は危険じゃないと告げてるし。
そう思いつつも私はてのひらに夜の炎の小ワープホールで呼び寄せた、愛刀“狂桜”を総司君に渡す。
うーん……“狂桜”以外のもの(スリッパとかさ)も呼び寄せられるよう練習するべきかな。可能かどうか知んないけど。
かつんかつんと確かに足音が聞こえる。
総司君と謎の相手との殺気の応酬のそばで、私は全開の胸元を戻そうとパジャマのボタンを探るが……。
あ、あれ? 胸から下のボタンが飛んでる。さっき総司君に服を掴んで引き寄せられたときにやっちゃったらしい。
うああぁショックすぎる。千鶴ちゃんたちになんて説明すればいいんだ。
「……沖田君? と、香耶、ですか」
「あれ。骸君?」
少ない言葉を交わし、暗かった室内に灯が灯る。骸君の幻覚……かな? 便利だ。
現れた骸君は、いつも不敵にすがめられているオッドアイを珍しく見開いていた。
「やぁ、夜分遅くにごめんね」
「香耶!? なんでそんな格好……沖田君、まさか」
骸君の赤い六道眼が険を帯びて怪しく光る。それに総司君は肩をすくめた。
「言い訳はしないよ。僕が香耶さんを襲って、彼女が逃げようとして夜の炎を発動させたらふたりでここに来ちゃったみたい」
ここに出たのは、たぶん私が無意識に右目を辿ったからだ。
もの言いたげな骸君の視線に、私はあははと苦笑するしかない。修羅場を持ち込んですまん。
「とりあえず沖田君、君は六道に叩き堕としてあげます。そこになおりなさい」
「僕も色々溜まってたところだし、ちょうどいいから相手してあげるよ」
総司君が“狂桜”の鯉口を切ると、骸君は三叉槍を回転させる。
三叉槍の石突がとんと地面に触れるとふたりの激闘が始まった。
「香耶様、これを」
「ぬぁ! 柿ピーに負けてらんねー! 香耶しゃん、俺の上着を着るびょん」
「あ、ありがとう千種君、犬君」
パジャマの前をかき合わせた格好の私に、ばさばさと黒曜中の制服がかけられる。
それらで胸を隠すように握りしめて笑うと、千種君も犬君も私から視線をそらした。
「……風邪引くから(……それに目の毒すぎ)」
「明日返しに行っていい? …っていうか、ここどこ?」
「黒曜ヘルシーランドっつーとこらびょん」
「はー……つはものどもが夢のあと、って感じだね」
私は壮絶なバトルが繰り広げられてる部屋の中央からぐるりと周囲を見回した。
見えるのは夏草じゃなくて廃墟だけど。
「香耶しゃんの言うことって時々わかんねー」
「犬は勉強不足」
現実から目を逸らしつつ和やかに談笑していると、私たちの間を三叉槍や日本刀がすり抜けていって後ろの壁に突き刺さった。
「君たち、なにを抜け駆けしてるのさ」
「ほう……いい度胸ですね。犬、千種」
「ごっ誤解らびょん!」
総司君と骸君が組んだら私たちの足場は一瞬で地獄絵図に早変わり。
あれにかなうわけがない、って千種君は犬君を囮にしてふたりのまえに差し出したり、裸足の私を担ぎ上げて逃げ出したり。
珍しくアグレッシブに動く千種君にしがみつきながら、私はみんなのやり取りを笑って見守っていた。
ボスとしてどうあるべきか。
女としてどう答えを出すべきか。
なんて。
今、このときばかりは難しいことなんて全部忘れて、大笑いして走り回って。
いつか、このツケをいっぺんに支払うときが来るのだろうか。