25

雪村千鶴side



十二月。
ついこの前並中に入学したと思ったのに、月日が経つのはあっという間。

……って、なんだか年寄りじみたセリフだな、と苦笑する口元をマフラーで隠した。
私がひとり、並中から新選組へと下校していると、通りの向こうに見慣れた銀色を見つけた。

「あ、香耶……さん?」

誰もがうらやむほどの綺麗な銀髪の後姿。香耶さんに間違いはない。
声を張り上げて名を呼んで、そばに駆け寄って話しかけたいと思うのに、彼女の隣には知らない男の人がいた。

あ、あれって……もしかして、ナンパ……?
たっ助けなきゃ!

香耶さんって肝心なところで鈍いから今からどこかひと気の無いところに連れて行かれてナンパ男の仲間に囲まれて貞操的なピンチに陥っちゃったりするんだ……!

と、そこまで考えが至った私は肩から提げていたカバンに手をつっこんで、新選組本部で日夜改造にいそしんだ多機能高電圧スタンガンを握りしめた。
いつも鍛錬に使ってる小太刀は学校に持っていくわけにも行かないから苦肉の策。ほかの隊士の皆さんも、日本刀を持ち歩けない状況のときでもなにかしら携帯できる武器を常備しているのだ。
そんな武器を手に持ち、どきどきする胸を押さえている間にも香耶さんはナンパ男に迫られていたみたい。
会話は聞こえないけれど彼女は男に手を握られていた。大変!
私は走り出した!


「っ香耶さんを離してください!」

『!!!』


その場にいた全員が息を呑んだ。
我ながら機敏な動きだったと思う。鍛錬の成果を発揮できていた。

相手が気絶する程度に威力を抑えたスタンガンを男の懐に繰り出し(よけられたけど)、香耶さんを守るように立つ。
手は震えてるし、膝も笑ってるけど、なにがなんでも香耶さんだけは守る。それしか頭に無かった。
ここで初めてナンパ男の顔を見たのだけど、男は私を見るや両手を挙げてからからと笑った。

「ちょっと待てってお嬢ちゃん、俺は怪しいモンじゃねえって」

「自分から怪しいと名乗る不審者はいないよ、ディーノ」

「え、」

香耶さんが男の名を呼んだ。
し、知り合い……?




私が殺意を持って攻撃したというのに、ディーノさんも香耶さんも朗らかに笑ってなんでもないことのようにスルーした。
このことからディーノさんはおそらくマフィア関係のひとなのではないかと予想する。

「悪ぃな、香耶! 引き止めちまって」

「いいけどね。送っていこうか?」

「いやそこまでしてもらうわけにはいかねーよ、うわっ!?」

「あ、危ない!」

ディーノさんがいきなり何もないところで転んで、それに私までまき込まれた。
二人でもつれ込んで車道に飛び出そうとするのを、香耶さんはよりによってディーノさんの背中を踏みつけることで止める。

「──ふぅ、危ないとこだったね。千鶴ちゃん」

「あ、は、はい……」

安心したように私に手を差し出す香耶さんの足は、いまだにディーノさんの背中の上。

「いって…転んじまったぜ」

「転んじまったぜ、じゃないよディーノ。うちの大事な千鶴ちゃんに怪我でもさせたらどうするの。この駄目馬」

「すっスマン! 悪かった! だから足……!」

ブーツのヒールでぐりぐりと彼の背中を踏みつける香耶さん。
私のために怒ってくれてるって分かってるけどなんだかディーノさんに申し訳ない。

「香耶さん、あの…怪我も無かったですし、そのくらいにしてあげて、ください……」

「そう? じゃあ千鶴ちゃんに免じて許してあげるよ」

「ありがとうな、千鶴!」

……ディーノさんの背中を踏みつける香耶さんの姿がなんだかすごく似合っていたと思ったのは……私だけの秘密だ。

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