26
月神香耶side
キャバッローネファミリーのボス、ディーノ。
彼はべつに私をナンパしていたわけではなく、たんに道を聞いてきただけだった。
どうやらボンゴレ十代目候補の自宅……すなわち綱吉君の家に行きたかったらしい。
携帯で部下に連絡をとれば、と助言したのだけど今自分がどこにいるかも分からないらしく、しょうがないので手っ取り早く私が彼の電話で彼の部下に事情と現在地を説明してあげた。
ありがとうと手を握られたけど、彼に他意はなかったと思う。
まぁ、勘だけど。
そうして彼の部下が黒塗りの車で迎えに来て、ディーノを乗せて去ったのを私と千鶴ちゃんで見送ったのだった。
「なんだか変わったひとでしたね」
「ホントにね。マフィアってのはキャラが濃いひと達ばっかりだよ」
そう言って笑う私に、なぜか千鶴ちゃんは苦笑いだったけれど。
「帰りますか」
「はい」
一難去ってまた一難。新選組本部に帰る私たちに次の事件が待ち受けているなんて、このときは思いもしなかった。
「ただーいまー」
どこまでも和風の門をくぐり、二重の認証装置をパスし広い玄関を開け放つ。
夕食時だし誰かいるだろうと思っていたけど、ダイニングへ通じる廊下からは人の気配がかんじられなかった。
「あれ? みなさん道場でしょうか」
「んー、今日は根つめてんのかな?」
冷えた指先をコートのポケットから引き抜いて、ダイニングに繋がる引き戸を開けた。
「──!!」
ヒュッ!
その刹那。鋭利な刃が風を切る音とともに視界に飛び込んでくる。
私はほぼ考えることなく本能でそれをかわした。
一瞬のうちに右の指先に夜の炎を。左のてのひらに大空の炎を灯し、大空の炎の推進力を利用して、私たちに刃物を向けた不届き者に右の炎を突き出す。
私の右指は相手の心臓の位置へ、相手の刀は私の肩口をかすめ、両者ぴたりと止まった。
「っきゃぁぁああ!!?」
千鶴ちゃんは今の一瞬のやり取りを呆然と見やった後、ようやく状況を理解して悲鳴をあげた。
私の背後で彼女は混乱しながらも本日二度目の改造スタンガンを手に握る。
千鶴ちゃん、後生だからそのまま突っ込んでこないでくれよ。その場合まず真っ先に病院送りにされるのは私だろうからね。
「どうした!」
そこに一番に駆けつけてきたのは歳三君だった。意外。
「歳三君は中ボスのはずなのに」
「……呑気だな、てめえは」
転生しても秀麗な顔をあいかわらず不機嫌にゆがめ、寸止めクロスカウンターの体勢のままの私と侵入者をにらみつける。
「ちなみに真のラスボスは敬助君です」
「それは光栄ですね」
「ひぃ!!?」
ラスボスが降臨した。穏やかな笑顔の裏に邪悪なオーラを隠した敬助君には、今も昔も1ミリたりとも頭が上がらない。
「……それより。なんですか、この有様は?」
「ふん。この俺様がわざわざ出迎えてやったのだから、ありがたく思うのだな」
「出迎えにしては手荒すぎだろ……」
嗤笑して刀……童子切安綱を鞘に納める目のまえの男に、私はため息しか出ない。
「……君とはもっと違う再会のしかたをしたかったな。千景君」
風間千景。そのひとだ。