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月神香耶side



さて波乱だったらしい参観日も終わり、血の気の多い男どもの収拾もつけた、その翌日。
私は何故だか子供を抱えて街境を走り回っています。



「待てェランキングフゥ太!」

「逃がすなァ!」

「香耶さんっ、挟み撃ちにされちゃうよ!」

「んー、今電話してるからちょっと待って」

右手にフゥ太君、左手に携帯を持って走る私。それを追うのは、いかにもマフィアですって顔した男たちだ。

『香耶、二つ目の交差点を左折してください。土方君と沖田君に合流できます』

「りょーっかい!」

某国衛星をジャックしたらしい敬助君からそんな指示を受けた。
彼は新選組本部地下の研究室でモニターに囲まれながら、携帯片手にこの様子を見てるんだろう。怖すぎる。あのひと最強のヒッキーだ。

「香耶さんこっち!」

言われたとおりの道に進むと、耳に馴染んだ声とともに路地裏に引っ張り込まれた。
そこにいたのはまるで殺し屋のように険しい顔をした歳三君と総司君である。抱えていたフゥ太君が身を強ばらせた。気持ちは分かる。
すぐにマフィアたちが追いついてきた。
通話状態のままの携帯から、場にそぐわない涼しげな敬助君の声が聞こえる。

『そいつらはトッドファミリーの構成員達です』

「トッド? 聞いたことねぇな」

『情報屋ランキングフゥ太の持つランキングブックを狙っているようですね』

「ふぅん。何に使うつもりだか」

まぁ、想像に難くない。

追いついてきたマフィアたちは、フゥ太を返せだのわめき散らして臨戦態勢に入っている。
歳三君と総司君も、おのおの愛刀の鞘を払った。
負ける気はしない。新選組は少数精鋭の組織だ。

『そろそろ監察方が着きますよ』

言ったそばから周囲を人為的な霧が満たした。現れたのは幻術師組の烝君とクロームちゃんだ。

「俺たちが隠します」

「香耶様の邪魔はさせない……!」

この霧は私たちとマフィアたちの周囲を囲み、外界とこちらを分断する幻覚である。これで一般人に私たちが戦ってるところを見られなくてすむ。
幻術って超便利。

「じゃあ僕たちも人目を気にせず思う存分、死ぬ気の炎を使っていいってことだよね?」

「使うまでもないと思うけど……」

ギラギラと殺気をまき散らす総司君を恐れてか、私はしがみついてくるフゥ太君をしっかり抱きしめながら苦笑した。
彼らなら素手でも勝てそうなのに、わざわざ手の内を見せることはない。

「だってたまには思う存分暴れたいんだもん」

「その意見には俺も同意する」

ここにはいない誰かの声が、総司君に応えた。
それと同時に。


ドォォオオ!!


足元のアスファルトが割れる。重力に逆らうようにはじけて吹き上がる。

「「「うわぁああああ!!!」」」

トッドファミリーの男達がそれに巻き込まれ面白いくらい次々ふっ飛んでいった。



「あーあ。さき越されちゃった」

総司君が肩を落とす。
重力操作系の死ぬ気の炎。こんなこと出来るやつは、新選組に一人しかいない。
風間千景である。

「チッ……派手にやりやがって。警察と話しつけんの誰だと思ってやがんだ。風間」

「ふん。裏金は支部が出す。文句はなかろう。土方」

まるで私たちにひれ伏すように転がるマフィアたちを見下ろして、元凶である千景君は鼻で嗤う。あいかわらずの頭領の風格。生まれ変わってもチートくさいな。

『……それより先に、天霧か雲雀君が本部に殴りこんでこなければいいですけどね』

携帯のスピーカーから聞こえる敬助君の声は、どこか他人事のように冷ややかであった。




「香耶姉、ありがとう! さすがは怒らせると怖いマフィアランキング堂々の1位だね!」

「え、なにそれ……才能の無駄遣いじゃないかなー」

新選組本部。
机を挟んで向かいに座ったフゥ太君は、なんか私が想像してたよりもずいぶんドデカイ、ハードカバーの重厚な本を開いて私に見せてくれた。
これがあのランキングブックというやつらしい。

どうやらこのフゥ太くん。9歳にしてイタリアでは結構名の知れた情報屋で、そのランキングの的中率は100%なんだとか。その正確無比なデータは、序列を司るランキング星と交信し導き出されるとかなんとか……なかなかにオカルトチックな少年だ。
ちなみに呼び方が香耶さんから香耶姉に変わったのは、彼の信頼を得た証しである。

「まぁ、いくらここが治安大国ジャッポーネとはいえ、この街でうろうろするのは安全じゃないねー」

私は執務机でただいま入国中のマフィアのリストを見ながら、くりんくりんとペンを回した。
その私の両脇に、護るように立っているのは刀を佩いた総司君と一君で、フゥ太君は向かいのソファで千鶴ちゃんが用意した練り菓子と玉露をいただいている。肝の据わった子供だ。伊達に裏社会を放浪していない。
私の作業をサポートする歳三君や薫君は厳しい表情。周囲に目をむければ、入り口脇に立つ平助君、新八君。

まぁでもこの警戒態勢は形だけのものだ。警戒レベルで言うなら、下から二番目くらい。
フゥ太君自体は私たちにとって無害だと思う。いつもの私の勘だ。

「よければ支部で匿おうか?」

千景君に預けるのはいささか不安だが。……とは思っても口には出さないけど。
しかしフゥ太君は、首を横に振ってあっさりこの提案を退けた。

「僕ボンゴレ10代目のところに行きます。最初からそのつもりだったし……」

言いながら、よいしょ、とランキングブックを私に見せる。

「それにほら、ボンゴレ10代目のツナ兄は、頼まれたら断れないマフィアランキング1位。野望のないボスランキングでも1位だから」

「ああ、たしかに。綱吉君の元なら安全だね」

私の後ろで総司君がこらえきれず噴き出した。こらこら空気読め。

「綱吉君にはもう会った?」

「ツナ兄のことは半年前から観察してる」

大物だ。この子。

「そんじゃ、綱吉君の保護者と家庭教師に君のこと話しとくよ。あと、並盛にいるマフィアの動きには注意しておこう」

「ありがとう、香耶姉!」

将来が楽しみである。

ちなみに千景君が、やっと迎えに来た天霧君に支部へと連れ戻されていったのは、それから数日後のことだった。

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