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沖田総司side



「え。香耶さん、今なんて、」

「だからね、総司君。ぶっ潰してきて。道場破り」

これが僕に与えられた初任務。
並盛町にある武道道場が最近、道場破りに荒らされて困ってるらしいから、その対処、というのが内容だ。
香耶さんは新選組本部の執務室の机に書類を置いて、にこりと笑った。

「笹川了平くんと一緒にね」

「ええー……」



笹川了平。

並中2年、ボクシング部主将の男だ。
あいつを言葉で言い表すのなら、馬鹿。うざい。暑苦しい。人の話を聞かない。極限。
べつに調べたわけじゃない。勝手に耳に入ってくるのだ。何しろヤツは僕のクラスメイトなんだから。
なんで僕があんなのと一緒に行動しなきゃなんないんだよ。僕ひとりで充分じゃないのかな。



翌日、クサクサしながら並中内を歩いていると、トレーニングセンターの脇で見つけてしまった。
笹川了平と沢田綱吉。
はぁと重いため息をつきながら、僕は二人に近づいた。

「笹川君」

「おお、沖田ではないか! とうとうボクシング部のすばらしさに気付いたようだな!」

「いや違うから」

やめたい。この任務。
視線をずらすとびくびくとこちらをうかがう沢田君がいた。

「はじめまして。沖田総司です。よろしくね、沢田君」

「こっここここちらこそ沖田先輩!」

初めて会った気がしない。良くも悪くもお互い有名人だからね。
特に沢田君は、ことあるごとに香耶さんが気にかけるし

「僕も道場破り潰しに参加するから」

「え……ええぇ!? で、でも大丈夫ですか? 結構危ないみたいだし……」

「ま、大丈夫じゃない?」

専門は刀だけど、たまにはただ拳を振るうってのもいいか。

「こいつはつえーぞ。ヒバリと喧嘩して負けなしだからな」

「お、沖田先輩がヒバリさんとー!!?」

「あれ、君はたしか……リボン君だっけ」

現れたのは、二足歩行で流暢に喋る赤ん坊だ。
この子、以前香耶さんと一緒にいるのを見たことがある。あの時は黒スーツにボルサリーノでキメてたけど、今日は象の着ぐるみだ。

「俺はパオパオ老師だぞ」

「ぱおぱお浪士……」

「浪士じゃなくて老師ですから! っていうかおまえはリボーンだろ!」

「うるせーぞダメツナ」

「痛ーっ!」

あ。綱吉君がリボーン君にぶん殴られた。
意外に打たれ強いな。
こうしてやる気まんまんの笹川君と、なに考えてるかわからないリボーン君、いろんな意味で萎える沢田君と僕の4人で、並盛に点在する道場を巡ることになった。




さて、午後3時を過ぎたころ、道場破りが現れるだろう目的の道場に着いた。
笹川君をはじめとする門下生意一同が気合を入れてポージングするのを横目で眺めつつ、僕はリボーン君を連れて『並盛道場』と書かれた看板を見上げる。

「ふーん。こんな子供ばかりの道場破っても面白くもなんともなさそうだけど」

「そう言ってやるな。お前らの試衛館道場とは比べもんにならねーかもしれねーがな」

「リボーン君、試衛館のこと知ってるんだ。どうせならあそこに道場破りしてくれればいいのに。みんな喜々として返り討ちにするんだけどな」

「その前に新選組の敷地には幻術とハイテクを駆使した鉄壁のセキュリティーがあるだろ」

「ああ、それもそうだね」

あれをスルーできる賊がいるとしたら、夜の炎を持つ復讐者くらいだろう。
復讐者を纏める立場にあるバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタイン(名前あってるよね?)は、なぜか香耶さんに頭が上がらないらしいけど。

そんな僕たちの背後で、ひとりの子どもが道場の扉を開けた。

「イーピン!!」

沢田君が驚いて声を上げる。
現れたのは、辮髪に唐装(カンフー着)を着用した男の子……女の子かな。

僕はさっきの位置から一歩も動かず事態を静観する。
リボーン君の通訳で、イーピンちゃんがこの道場の看板を狙いにやってきたことを知り、道場で腕に覚えのある門下生達がいっせいに彼女へ向かっていった。でも看板を守るためとはいえ、女の子一人にこの所業もどうなんだろう。
あの子が危なくなったら助けに入ろうと心に決めるも、しかし僕の決心を他所に、イーピンちゃんは門下生の少年達を次々にぶっ飛ばしていた。
なんだ。諸々の心配は不用だったらしい。

「……おい、沖田。どこ行くつもりだ?」

「いいもの見れたし帰るよ」

「おまえ、最初の目的を忘れてねーか?」

「どうかな」

ここの収拾はリボーン君たちに任せていいだろう。
見たところおそらく、イーピンちゃんは笹川君には敵わない。
あの女の子が仮に補導でもされたところで、僕の任務的には願ったりかなったりな話だ。
そのあとは牛柄の服着た子供と入れ違いに道場を出た。



……が。

「よぅ、そこのモヤシ君」

「は?」

外に出たところでガラの悪い男達三人に絡まれてしまった。

「見てたぜ〜今そこの道場から出てきただろ」

「俺たち道場破りなわけよ。モヤシ君を見逃すわけにゃいかねーなー」

「……へぇ」

リーダーっぽい男に胸ぐらをつかまれる。

「今並盛を騒がせてる道場破りって君たちなの?」

「おうとも。これで四件目」

へぇーふーんなるほどねー。
あれ、じゃあイーピンちゃんは……道場破りじゃなかったのかな? もしかして別件?
うーん……もっと中国語の勉強しとけばよかった。

「おまえのフヌケな道場主に伝えてこいよ。恐ろしい道場破りが来ちゃいましたーってよ」

「モヤシ君の師範ならモヤシ先生? ギャハハハハ!」

「……」

殺していいかな。相手の実力も測れないくせにモヤシモヤシって……。

「君たちなんかに、この僕が手をくだす価値があるとはおもえないけど」



目を閉じれば見える。
僕たちを厳しく導き、優しく包む、大きくて小さなひとが。

「相手してあげるよ」

僕の胸ぐらをつかんでいた男の手首をつかみ返す。
ぎしりと握力を強めると、そいつはぐあっとつぶれたような悲鳴をあげた。

「僕の師がどれほどのものか、身をもって教えてあげる」

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