なんでこんなめに(sideするり)
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「待ちやがれ、怪しい南蛮人め!」
あたしは着物姿で日本刀を持った男達に追いかけられていた。
やだ、怖い! なんであたしがこんなめに遭わなきゃならないのよ!
あたしの装備は、学校の制服に黒いタイツ、ヒール高5cmのローファー、サイフやノートが入ったバッグ。
こんなことになるならサバイバルナイフかなんか持ち歩いとくべきだったのかしら。
なんとか建物の角を利用し浪士たちを引き離したところで、建物と建物の隙間に身を滑り込ませ、体の震えも息も止める勢いで気配を殺した。
無我夢中で自分が立てる音を殺して。なのに心臓だけは、まるで耳の中にこだますようにドキドキと煩くって。
あたしこのままここで殺されちゃうのかしら。あんな、名前も知らない汚い男達の刀の錆になっちゃうのかしら。
べつに、もとの世界には、つまんないから未練なんかないけど、でもこんなのあんまりだわ。
……あれ?
なんだかこの状況を、あたしは客観的に見たことがあるような気がした。
そう……よ。PS3の乙女ゲームで。あたしすっごくハマったやつだったのよね。
こんな月の出てる日に、ヒロインが追われちゃって。
『な、なんだ貴様っ!? ぎゃああぁぁ!!!』
ざしゅっ!
次は、羅刹……そうよ、羅刹が現れて、そして新選組が助けてくれちゃったりして、
「大丈夫かい?」
「え、……はい」
違った。新選組じゃなかった……。
あたしはがっかりした。やっぱり夢小説のようにはいかないのかしら。
しかもこのひと……。
「あ、怖がらなくていいよ。私は月神香耶」
このひと、女だ。
血まみれの手……あたしはその差し出された手を取ることはできなかった。
辻に倒れる浪士の死体も。
この鉄臭いにおいも。
あたしを襲う悪寒も。
何もかも現実だって分かったから。