思い通りにはさせない(sideするり)
母部するりside
ここが薄桜鬼の世界なのかどうか分からないまま、あたしは月神さんに案内されて茶屋に住み込むことになった。
助かった、とは思う。月神さんがいなかったら、まずおなかを満たすこともできなかったし。土の上で眠る羽目にならずにすんだし。
でも。でもでもっ!
幕末の世界にトリップとかしたらさぁ、フツウあたしを助けてくれるのって、新選組とか攘夷志士とかのカッコイイ男じゃないの!?
そんで、あたしに一目惚れとかして、他の仲間もあたしに惚れちゃって、あたしを取り合ったりしちゃうはずでしょ。
なのに、なんで可愛いあたしがこんな町娘その1みたいな役どころなのよ!
あたしだって土方さんの小姓とかになりたいのに!
モブなんてまっぴらごめんなのよ!
そんな釈然としない気持ちを抱えたまま、あたしは幾松茶屋で働くことになってしまったのだ。
「するりちゃん、おはよう。着物もいいねぇ」
「可愛いからなんでも似合うてはるわ」
「(当然でしょ!)お、おはようございます……」
着物姿を褒められてすこし気分が上昇した。
着物は幾松茶屋のおかみ、お松さんに着せてもらった。
最初着ていた制服は、月神さんの勧めで全部バッグに詰め込んで風呂敷で包んだ。たしかにもうあんな浪士に追いかけられたくないもんね。
スマホの電池はすでに切れて役に立たない。おかしいな。こういうトリップのときは携帯のバッテリーはずっと使えるのがセオリーでしょ?
とにかくいまからあたしの幕末生活の第一日目が始まろうとしていたのだ。
「香耶さーん!」
戸口のほうからこの声を聞くまでは。
「えっ……この声は、(森久保ボイスじゃ…)」
「あ、私の客だよ。おまっちゃん、私出てくるね」
「ええよ、行っといで」
お松さんは茶屋の開店の準備をしてる。
あたしはそれを横目に、月神さんの客、というひとが気になってしょうがなくて、こっそり彼女のあとをついていった。
さっきの声。それにこの世界観。あたしの記憶が正しかったら、これは……!
「やあ、おはよう、総司君、一君、それに歳三君まで。迎えに来てくれたの?」
「香耶さんが急にお松さんのとこに泊まるって言うからさー、僕なにかしちゃったのかと思って」
「落ち込んだ総司に付き合わされて昨日は飲み明かした」
「まじか。あんなにバカ呑みすんなって言ったのに君という男は」
「そしたら君は僕のこと心配してくれるでしょ?」
「てめぇ香耶の気を引くために周りまで巻き込むんじゃねえよ」
「あーなるほど。君たちの目の下の隈はそのせいか」
キタ──!
土方歳三、斎藤一、沖田総司っ!!! やっぱりここは薄桜鬼の世界だったんだわ!
カッコイイィィ!! トリップ最高ォォォ!!!
そうしてあたしが感動してる目のまえで、月神さんが沖田さんに抱きついて(←現実は逆。沖田が香耶さんに抱きついた)、あたしの機嫌が急降下した。
月神さん……いや、もう月神でいいや。
月神はやっぱり逆ハー狙いだったんだわ。
神様に選ばれたあたしを妬んで、薄桜キャラに会わせないように仕組んだにちがいないのよ!
「あ、あの……」
「あ? どうした」
あたしはおずおずと、一番近くにいた土方さんに話しかけた。
土方さんの綺麗な瞳があたしを射抜いて、すっごくテンションが上がる。あああ綺麗な顔!
「おかみの娘……じゃねえな。住み込みか?」
「あのっ! あたし母部するりといいます!」
彼は疲れた様子だったけど想像と違って優しく話しかけられた。あたしの可愛さに気付いてくれたのかしら。
「あたしを新選組においてください!!」
「はぁ?」
あたしは土方さんに頭を下げた。こういうのは熱意と誠意が大切なのよね。きっと土方さんだって分かってくれるわ。
あたしが頭を下げてる間に、土方さんが月神に困ったような視線を向けていたなんてあたしは気付かなかった。
「駄目だ」
「なんでよっ…なんでですか」
「てめぇみてぇな小娘が来るようなところじゃねぇんだよ」
「あたしを土方さんの小姓にしてください」
「おまえな……」
なんであたしをそんな呆れたような目で見るのよ。あたしだって、新選組が何をするところなのかくらい知ってるわ。
人を殺したりすることだって。
それに。
「あたしは未来から来たんです。だから新選組のことだって、羅刹のことだって知ってるわ」
そう口にすると、土方さんたちは目を見開いた。
月神は額を抱えてたけど。きっとこんなに可愛いあたしが来ることになって、逆ハー狙えなくて悔しい思いをしてるんだわ。ざまあ見ろ、よ。
「貴様……何ゆえ羅刹のことを…」
「一君、それ以上は屯所でね」
沖田さんがあたしの腕を掴む。ちょっと力が強くて痛いけど、でもあたしは泣き言なんか言わないわ!
そうしたら、気の強い女の子って好きだよ、なんて沖田さんが言ってくれちゃったりして……!
近い未来を想像してる間に、腕を引っ張られて歩かされる。
あ、これから新選組の屯所に連れて行かれるのね。……荷物を取りに行かせてもらえないかしら?
ちらっと月神の顔を見てにやりと笑ってやると、月神は困ったように肩を落とした。
ふん。あんたの思い通りにはさせないんだから!