心労察するよ(side香耶)

月神香耶side



あああぁ……せっかく血なまぐさい世界とは関わらないように生活の基盤を整えてあげたのに!

私は昨夜、浪士に追いかけられていた女の子を助けた。
その子が母部するりちゃん。
ツインテールに制服を着ていて、偶発的に時渡りしてきた子なんだってすぐにピンときた。
彼女が幾松茶屋で住み込みで働けるよう、おまっちゃんに頼んだのだけれど。

するりちゃんは新選組に置いてほしいと、よりによって歳三君の前で羅刹のことを知っている、なんて口走ったのだ。
で、新選組屯所である西本願寺に連行したするりちゃんの、尋問が始まったというわけ。

「母部するり。なぜ羅刹のことを知ってやがる」

「だからあたしは未来から来たんだってば! 荷物を見てもらえば分かります。この時代じゃ作れないものばかりだもの。ほら」

ちなみに彼女の荷物は私が幾松茶屋から持ってきてあげた。

胸を張って自分の荷物を自慢するするりちゃんに、しかし幹部達は眉をひそめる。
その気持ちは分かる。私の目には、今のするりちゃんの表情は、文明の遅れた彼らの世界を見下したもののように映ったから。

「てめぇが未来から来たことを疑ってんじゃねえよ(香耶っつー前例がいるしな)」

「え、じゃあ何……?」

「だがてめぇが尊皇攘夷派の回し者じゃねえという証拠はねえ」

「そんな! あたしは昨日この世界に来たばっかりなんですよ! あのひとに聞いてもらえばわかります!」

叫ぶように言って、するりちゃんは私を見た。おぉいここで私に振るのか。
敬助君がなにか裏のありそうな笑顔を私に向けた。

「どうです、香耶君? 彼女の言ってることに間違いはないですか」

「うーん……私にはなんとも。私がするりちゃんを初めて見たのは、彼女が浪士に追いかけられてるところだったし」

「えっ、そんなぁ!」

「ほら、香耶さんもそう言ってることだし殺しちゃいましょうよ、近藤さん」

総司君の言葉にするりちゃんが青ざめた。まぁ怪しきは罰せよとは言うけど。

「いや待て、総司。民を守る俺たちが、その民を殺してなんとする」

「やだなぁ冗談ですよ」

近藤さんならそう言うと思った。
まぁ千鶴ちゃんだって近藤さんのおかげで生きてるといっても過言ではないし、彼のこういうところは欠点でもあり長所でもあるから。

「じゃ、じゃぁ……!」

「うむ。どうだろうトシ。彼女をしばらくここに置いて、様子を見るというのは」

「はぁ……言うと思ったよ。仕方ねえ」

歳三君は眉間にしわを寄せてため息を吐いた。うん、心労察するよ。ご苦労様だね。

「いいか、母部。少しでも怪しい動きを見せれば……」

「はいっ! あたしがんばります!!」

なにをがんばるんだ彼女は。軟禁生活をかな?


呼ばれた島田君がするりちゃんを連れて行った。
西本願寺移転後でよかったね。部屋数には余裕がある。私と千鶴ちゃんはあいかわらず相部屋だけど。だって急に一人部屋なんて寂しいし。
するりちゃんの気配が広間から完全に遠のいたところで、歳三君は声を落とし、幹部に命令する。

「いいか、少しでも奴の存在が邪魔になったら斬れ。それまでは母部の目的を聞き出すと同時に身辺を徹底的に洗うぞ」

「「「はい」」」

幹部達はおのおの厳しい顔でうなずいた。
するりちゃんの目的か……あんがい何も考えてなさそうな気がするけどね。

「香耶さん、僕たちも行こう?」

解散後もじっと考え込む私の視界を、総司君が覗き込んだ。

「するりちゃん、だっけ。ごめんね、香耶さんが保護したんだよね?」

「そこはべつにいいんだけどねー」

総司君が私の手を引っ張って立たせてくれる。勢いがついてふらついた私の身体を、総司君は引き寄せて抱きとめた。

「確かに可愛い子だけど、僕は香耶さんにしか興味ないから」

「そんな心配してないよ」

なんだか話がおかしな方向にそれるものだから、私は笑って総司君の額を小突く。

「ただ……」

「ただ?」

切なそうに遠くを見る私を、総司君は心配そうな顔で慰めるように撫でてくれた。


「ただ、おまっちゃんの特性おはぎ、食べ逃したなぁと思って」

「うん。もう一回幾松茶屋に行こうか」

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