ご愁傷様だよ(side沖田)
沖田総司side
香耶さんはするりちゃんが干す予定だったと思われる、濡れた隊服を籠に拾い集める。ちなみにこれを洗ったのは千鶴ちゃんらしい。
「あーあ、それ三番組の隊服だよね。明日一君たちどうするのかなぁ」
「仕方ないな。もう一度洗って、明日までに乾かなかったら非番の隊に借りるしかないよ」
「香耶さんが洗うつもり?」
「んー誰かに手伝ってもらおうかなぁ」
にやりと笑って、香耶さんの視線が僕を捕らえた。
あ。まずい。
「どこ行くつもりかなー」
「うっ」
「逃がすか貴重な戦力」
「うわっしまった!」
香耶さんにがっちり衿を引っ張られ、僕まで洗濯を手伝うことになってしまった。
それにしても、演技とはいえ香耶さんが泣いたときはびっくりした。どうしたらいいか分からなくなってしまった。
「はぁ……香耶さんのすることには協力してあげたいけど、あんまり無茶しないでよね」
「はーい」
香耶さんは僕の隣でさばさばと隊服の泥を落としていた。
香耶さんがたてた作戦は有効だろう、というのが土方さん、山南さん、近藤さんの判断だ。
「みっ見損ないました……っ香耶さん、だっ大嫌い、です」
「だめだよ千鶴ちゃん、棒読みすぎー。もっと私を睨んで、ほら」
「うぅ……香耶さんにこんなこと言えませんよぅ」
「おいおい、涙目じゃねえか。もうやめてやれよ、香耶」
左之さんが千鶴ちゃんの頭をなでながら苦笑すると、香耶さんはいたずらが成功したみたいな顔をして笑った。
「あはは、からかい過ぎたかな?」
「か、からかってたんですか!? 酷いです!!」
「今の感じ、いいんじゃない? ね、香耶さん」
「ほんとほんと。いよっ! 千両役者!」
「もう! 香耶さんに沖田さんまで、怒りますよ!」
あんなことがあったなんて信じられないくらい和気あいあいの夕餉の席。
するりちゃんの監視は、あの昼間の出来事のまま平助君が行っている。ご愁傷様だよ。ほんと。
「香耶、他に分かったことは」
「こっちはとくには」
一君の静かな声音に、みんなは落ち着きを取り戻して食事を再開する。
「あー、あいつ、昨日は千鶴ちゃんの手伝いをするって意気込んでたけど、じつはほとんどなにもしてなかったな」
「たしかにな……洗濯だって、千鶴と香耶がやったんだろ?」
「そうそう、僕もね。するりちゃんは左之さんたちに付きまとってばっかりだったし」
左之さんはともかく新八さんにまで気づかれるなんて、詰めが甘いなぁ。
「あの……私、朝、玄関と廊下のお掃除を任せたんですけど……急におなかが痛くなったと言っていたので、お部屋で休むように進めたんです」
「だがあいつは部屋で休むどころか、道場にまで姿を見せていた」
一君がそう言うと、千鶴ちゃんは困ったようにうなずいた。
なんだか面倒くさくなってきちゃった。さっさと斬っちゃえば楽なのに。
でも近藤さんが反対するしなぁ。
はぁ、とため息を吐いて千鶴ちゃんが作った味噌汁をかき込む。隣の香耶さんから、ちゃんと噛んで食べなさい、とお小言が飛んできた。
その時だ。
部屋の外から、今は聞きたくなかった甲高い声が聞こえたのは。
「あ、ここね。みんなでご飯食べてる広間って」
「待てってするり! おまえだけじゃなくて俺まで土方さんに怒られちまうんだからな!」
「大丈夫よ、平助君。土方さんってああみえてほんとうは優しいんだから!」
今まで上座で黙って食事していた土方さんが、声のするふすまの向こうへ剣呑な視線を向けた。
土方さんが優しいって……彼女は何を根拠に言ってるんだろう。ほとんど喋ったことないくせに。
声の主であるするりちゃんは、広間のふすまをそろっと開き、上目遣いでこちらを覗き込んだ。
「あのぉー」
「……平助。連れてくるなっつっただろ」
「あー、悪ぃ土方さん。こいつがどうしてもって聞かなくてさ」
平助君は心底疲れたように肩を落とした。
「土方さぁん、あたしも一緒にご飯食べていいですよね?」
あざとくこてんと首をかしげるするりちゃん。自分が他人の目にどう映るか知り尽くしてるみたいだ。
「駄目だ」
「なんでぇ〜? あたし未来から来たから新選組の歴史も知ってるし、みんなの助けになると思うの。だからご飯時だけでも…」
「てめぇから聞くことなんざなにもねぇよ。分かったら自室に戻れ」
ぴしゃりと一蹴されて、するりちゃんの表情が凍りついた。
「あのさぁ、するりちゃん。僕たちは君の知ってる『新選組の歴史』とか興味ないんだよね」
「えっ、どうして? 未来を知ってれば余計な怪我とかしなくてすむじゃない」
「その余計な怪我を回避させて、するりちゃんは新選組をどうしたいの?」
「え……どうしたいって……あたしはみんなが怪我しなければいいって思って……」
「余計な世話だ」
「さ、斎藤さんまで、」
香耶さんとするりちゃんがやろうとしていることは、似ているのかもしれない。
誰かが死ぬ、そんな運命を変えたい。例え歴史を変えてでも。未来を知ってるがゆえに、行き着くところは同じなのだろう。
だけど、香耶さんとするりちゃんでは、決定的に違うことがあって。
「俺たちはてめぇなんぞの言葉で進む道を変えたりしねえ。わかったら金輪際、新選組の未来がどうなるだとか口にするんじゃねえぞ」
「……わかりました」
土方さんの言葉に、しぶしぶとするりちゃんはうなずいた。
──それは、徹底的な信頼の差。